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第25話 「無観客の夏」
大会初戦当日。
朝六時。
柳城高校グラウンド。
集合した部員たちは、どこか静かだった。
いつもの夏と違う。
応援制限。
吹奏楽なし。
無観客試合。
スタンドには、ほとんど人が入れない。
それでも選手たちは、ユニフォームへ袖を通す。
小早川啓介は、背番号2をゆっくり触った。
最後の夏。
たとえ甲子園がなくても。
この試合は、本物だった。
バス移動。
窓の外には、夏空が広がっている。
誰も大きな声を出さない。
だが緊張だけではなかった。
“試合ができる”
そのことへの感謝もあった。
球場到着。
広いスタンド。
静かな客席。
例年の夏とは、まるで違う。
小早川はバックネット裏を見る。
そこには、人数制限で入れた保護者たち。
そして舞の姿。
舞は、小さく拳を握った。
啓介も静かに頷く。
試合前ノック。
――パシッ!!
グラブの音だけが響く。
歓声がない球場は、不思議だった。
「整列!!」
柳城ナインが並ぶ。
相手は県立南筑高校。
堅実な守備が持ち味のチーム。
礼。
――プレイボール。
初回。
柳城の攻撃。
先頭打者出塁。
送りバント。
一死二塁。
打席には三番。
――カキン!!
センター前。
先制。
1対0。
ベンチが盛り上がる。
「よしっ!!」
だが南筑も粘る。
三回。
二死二塁。
打席は相手四番。
小早川はミットを構える。
(低め……)
投げた。
打った。
鋭い打球。
だが――
ショート正面。
アウト。
柳城ベンチが声を上げる。
試合は中盤へ。
福間監督は静かに試合を見ていた。
以前の柳城なら、焦って崩れていた。
だが今は違う。
守る。
繋ぐ。
耐える。
福間監督が作ってきた野球だった。
6回。
柳城追加点。
二死満塁。
打席には小早川。
静かな球場。
初球。
高め。
振り抜く。
――カキン!!
打球はレフト線へ。
走者一掃。
三塁打。
4対0。
ベンチ総立ち。
舞も思わず立ち上がる。
小早川は三塁上で息を吐いた。
(絶対、終わらせない)
#高校生
最終回。
エースが最後の打者を打ち取る。
――ファーストフライ。
アウト。
ゲームセット。
柳城高校 4―0 南筑高校。
初戦突破。
だが歓声は少ない。
拍手だけが、静かに響く。
それでも選手たちは笑っていた。
試合ができた。
勝てた。
それだけで、十分だった。
整列後。
福間監督が言う。
「次や」
短い言葉。
だが全員の目が変わる。
この夏は短い。
だからこそ、一試合が重い。
夕方。
球場を出る柳城ナインの背中を、夏の西日が照らしていた。
第25話 終