第9話 本能の裏切り
中学校生活が始まって2ヶ月程経った頃の事だった。
「ねぇねぇ!澪那ちゃん……だよね?」
そう言って明るく話しかけてきたのは、クラスの中心である、桃井恋歌だった。あまり関わりのなかった澪那は、少しビクビクしながら、
「あ、恋歌ちゃん、だよね?どしたの?」
と、できるだけ明るく、けれど震えた声で返した。こんなに地味で目立たない自分に、何を言うつもりなのだろうと思っていると、恋歌は信じられないことを言った。
「あのね。澪那ちゃん、あの前の席の、千季さん、?と仲良いでしょ?」
千季、それは、澪那が大好きな親友の苗字だった。
────梨柚が何かしたの……..?
そんなことを考えながら、澪那は頷いた。
恋歌が続ける。
「私ね……..あの子の事が、すっごく嫌いなの。理由は話せないけど、すごく嫌い。邪魔なの。」
そう話す恋歌の声は、酷く冷たかった。澪那の全身に、鳥肌が立つ。
「だからね、クラスのみんなに協力して欲しくて。今、色んな人に声掛けてたところなの。澪那ちゃんにも協力して欲しいの。」
恐る恐る、澪那は聞いた。
「協力って……..?」
「酷いことをされた仕返し。千季さんを……あのクソ女を、消すための、協力」
ゾッとした。消す、それは、恐ろしい意味にしか聞こえなかった。
断りたかった。
親友にそんなことするなんて許すはずがない、そう怒りたかった。でも、断ったら、どうなるだろう。あの子達は、自分のことをどう思うだろう。クラスのみんなに言うかもしれない。
澪那は私たちに逆らったから、梨柚と一緒に消してしまおう、と。
頭の中で、嫌な妄想が広がっていく。
澪那は考えることを辞めた。
自分が1番。それが人間の本能なのかもしれない。きっと他のクラスメイト達も、同じ考えだったのかもしれない。澪那は、恋歌達に向かって言った。
「実は、私も梨柚のこと嫌いだったの。……いいよ、一緒に、梨柚を消そう。」