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第10話 夏になびく髪
日差しの強い夏が来た。
櫻葉中学校は、夏休みに入った。
猛暑の中外に出る気力も無く、梨柚はここ3日、ずっと机に向かって夏休みの課題をしている。こんな時でさえ、他の子は私と違って友達とたくさん遊んでるんだ、なんて考えがよぎる。でも、今の梨柚のそばには、大好きな親友がいない。予定を埋めてくれる存在がいない。
そんな中、夏休み5日目に、栲からLINEが来た。
「夏祭り、一緒に行かないか?」
梨柚の住む櫻葉町では、毎年、屋台がたくさん出て、夜には盛大な花火が上がる、大きな夏祭りがある。
祭りの夜に大切な人と花火を見れば、恋愛や友情が上手くいく、なんて言い伝えもあった。
梨柚の頭に、その噂が浮かぶ。
(恋愛、か…..。そういえばあんまりしてこなかったなぁ…..。)
そして、思う。
(友情……..。)
一番に、大好きな親友────
澪那のことが浮かんだ。
(でも、誘えるわけない、よね)
そんな事を思いながら、栲の誘いに返信をした。
「いいよ。じゃあ、公園近くの土手に7時集合で!」
その日、お風呂から上がった梨柚は、洗面台の鏡に映る自分を見た。
(髪、だいぶ伸びたなぁ)
今、梨柚の髪は肘くらいの長さがある。確か、最後に髪を切ったのは、小6の夏くらいだったはずだ。
今日は7月25日。
夏祭りは30日。
(これから暑くなるし…..!栲との予定がとかじゃないし……!)
梨柚は、スマホで少し調べてから、28日に美容院の予約をした。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
栲は、そわそわしながら梨柚からの返信を待っていた。
(まぁ、どうせ断られるよな……)
梨柚にとって、自分はいじめられる原因ですらある。そんなやつと一緒にいたいとはどうやったって思えないだろう。
それでも、栲は期待してしまう。
ピコンッ
スマホの通知音がなった。栲はドキッとする。
おそるおそる電源をつけると、LINEからの通知が表示されている。梨柚からだ。そこには…..
「いいよ。じゃあ、公園近くの土手に7時集合で!」
「スーーーーーーーッ」
栲は深く息を吸い込んだ。そして。
「よっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
思いっきり叫んだ。下の階から、うるさいわよ!!と、お母さんの声が聞こえる。でも、栲の耳には入らない。
栲は、幸せを噛み締めながら、ガッツポーズをした。