テラーノベル
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その翌日から、
日常はゆっくり、確実に変わり始めた。
ホームルーム後のざわついた教室。
若井は自然に僕の席までやってきて、
『んね、これあげる』と、
若井の好きな飴を押しつけてくる。
前だったら何でもないややり取りが、
今は妙にくすぐったい。
キスのこと、
若井はどんな風に思ってるだろう、
またしたい、って思ってしまうのは、
僕だけなのかな…
チャイムが鳴っても、
妙に浮き足立って消しゴムを何度も落とす自分。
若井に『そわそわしてんなー』と
肩を叩かれる度、鼓動が跳ねて苦しい。
そんな僕たちの様子に、
涼ちゃんはやたらとニヤニヤして、
『最近、2人でこそこそしてるよね?』
なんて揶揄ってくる。
『別に、なんもないよ』と
若井は笑って誤魔化し、
僕は顔が熱くなって下を向く。
帰り道、いつもの公園のベンチに2人で座った。
他愛もない話をしながら、
僕は勇気を出してぽつりと言う。
元貴『屋上のこと…
…なんか、夢だったみたいだね、』
若井が、真剣な顔で僕を見る。
滉斗『夢じゃないよ、ちゃんと現実だから、
元貴が泣いて、俺が…しちゃったし、』
恥ずかしくて俯いた僕の手に、
若井の手がさりげなく重なる。
滉斗『また、不安になったら、ここで話そ、
隠し事とか、苦しいままはやめよ、?』
若井の声は、噓なく温かった。
元貴『でも、
学校じゃまだ普通にしてたいな、
……怖いから、』
滉斗『分かってる、
俺も別に無理させたくないから、
だけど、俺と2人きりの時は、
――普通に、素直になっていいでしょ?』
僕は思わず笑って、『うん』と答えた。
ほんの少し世界が明るくなったみたいに、
時々手が触れて、目が合う度、
何でもない日常がきらきらして見えた。
2人だけの秘密が、
この先どう変わっていくのかはまだ分からない。
でも、今日も若井を思う心は、
もう隠す必要がなくなった気がした。
小さな始まりと、
2人だけの約束。
それだけで、
明日が楽しみになった。
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