コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
【L&B&ニア&メロ&マット】
うるせぇな、と思った。
太鼓も、人混みも、綿あめの甘ったるい匂いも。全部、肌にまとわりついてきて息が詰まりそうだった。
なのに──なんでBだけは、この空気の中でも涼しい顔してんだろうな。
「見てくれ、メロ、いちご飴貰ったんだ。──わっはっはっは」
片手にまっ赤な飴玉をLみたいは持ち方で掲げていた。
「……ガキかよ」
そう言いながらも、視線は自然とその飴に吸い寄せられる。
照明に照らされて透けるように光るイチゴ飴。
まるでBの目みたいに、冷たくて、でも不思議と熱を感じる色。
「誰から貰ったの?」
マットが、飴に視線を向けながら何気なく問いかける。
Bはそれに、わざとらしく首をコキッと傾げて見せた。
「……さて。誰でしょう?」
「クイズかよ」
「いや、推理だ」
「弥海砂か?」
メロが答えた。
「あはははは、さすがだ、メロ」
マットが笑って肩をすくめる。
Bは答えず、飴をゆっくりと傾けて、赤い光を見ていた。
「それ、気に入ってるのか?」
俺が聞くと、Bは小さく息を吐いた。
「……気に入ってるっていうより、“捨てにくい”って感じかな」
「は?」
「あげないよ、メロ」
飴の棒をくるくると指で回しながら、Bがいたずらっぽく笑う。
マットが笑いをこらえるように口を押さえた。
ふっと空気が落ち着いた頃、Bがふいに言葉を切り替えた。
「──ところで、Lとニアはどこにいる?」
その言い方は自然だったけど、どこか探るようで、少しだけ本気の声だった。
俺とマットは視線を交わした。
「さっきまではヨーヨー釣りのあたりにいたけど……はぐれたな」
「Lが迷子、か。くっくっくっ」
「いや、あれは置いてかれただけだろ」
マットがスッと訂正を入れると、
「ニアが鈍臭いからだ」
と、俺が言い捨てた。
「んふふふふふ。相変わらず、ニアのこと“好き”なんだね」
「はあ!?」
反射的に声が裏返った。
「ど、どこをどう解釈したらそうなるんだよ!!」
Bは相変わらずイチゴ飴をくるくる回しながら、目を細める。
「過剰な反応。しかも即否定。いつも目で追っている。そのくせ、突き詰められると動揺する。反応の裏返しと見ていい」
「……ッ……!」
頭に血がのぼった俺は、反射的にBの襟を掴んで引き寄せた。
「冷静に推理してんじゃねぇよ!どういう意味だよ、それ!」
「くっくっく……まさか、本当に図星だった?」
「殺すぞてめぇ……!」
俺が完全に逆上しかけたその瞬間、Bは一歩下がってわざとらしく身をすくめた。
「わぁ、怖い後輩だ。なんて物騒な。でも、分かるよ。ほら、あの口の悪さとか、無駄に冷静なとことか──“なんかムカつく”が積もると、だいたい好きになる。でしょ?」
「なるか!!!!!」
後ろでマットが笑いをこらえながら顔をそむけてる。
「あっはははは!やっぱB先輩面白いなあ」
「お前も笑ってんじゃねぇよ!!」
Bはくっくっくと、もう完全に笑っていた。
イチゴ飴を口に含みながら、まるで“人間観察”を楽しんでるかのように。
「──いいね、メロ、夏だね」
「どこがだ!!」
「暑い。騒がしい。甘いものが増える。……それと、感情の暴走。……ねっ、メロ?」
「お前ェ……!!」
あまりに悔しくて、拳を握った俺の横で、マットがまだニヤニヤしながら言う。
「まあ、でもB先輩がここまで笑ってるの、久々に見たな」
Bは少し目を細めて、飴の棒を口から外した。
「……君たちといると、“Lごっこ”しなくて済むからね」
その言葉に、俺もマットも、ちょっとだけ黙った。
ああ、そうか。
この人は、“あいつの影”にいるだけじゃ、きっと息が詰まるんだ。
でも今だけは──
「お前、“ごっこ”じゃなくても、普通に変人だろ」
ズバッと切り捨てた。
「くっくっく、褒め言葉として受け取っておくよ、メロ」
ふたりの笑い声が混ざる。
──そのときだった。
「……あ、メロ。後ろ」
マットがひょいと顎をしゃくった。
振り返ると、人混みの向こう、ぼんやりと光るスーパーボールの屋台の影に、見覚えのある姿があった。
しゃがみ込んで、じっと水面を覗き込むL。
そのすぐ隣で、すくうタイミングを見計らっているニア。
俺たちはゆっくりと近づいていった。
──そして、距離が縮まった瞬間、目に飛び込んできたのは──
Lの顔に被せてあるひょっとこの面。
ニアの顔には『仮面ライダー』のごっついお面。
「……」
「……えっ」
思わず足が止まった。
「──何それ」
Lがちらりとこちらを見上げた。
ひょっとこの口元が、シュールに笑っている。
「顔がバレるとまずいので」
マットが即座にツッコんだ。
「誰もあんたがLだって気づかないよ」
「念には念を、です」
真顔で返されて、俺もマットも言葉を失った。
Bがぽつりとつぶやいた。
「……でも、“顔”じゃなくて、“正体”を隠してるんですよね?もう(外に)出ちゃった時点でアウトだと思いますが?」
Lはそれを聞いて、ほんのわずかに口元を動かした。
「……大丈夫です、B。万が一私に何かあっても、ここに『仮面ライダー』がいますから」
全員が一斉にニアを見た。
「…………」
仮面ライダーのお面をつけたまま、ニアはじっとスーパーボールを眺めている。
少し斜めを向いた顔は、妙にシュールだ。
「守ってくれるの?ニアさん」
マットが吹き出しながら聞くと、
「変身後の私は無敵なので」
と、真顔で返ってきた。
それを聞いたマットは、ぽんっと手を叩いた。
「じゃあさ、あの光るボール取ってくれない? 仮面ライダーなら取れるんでしょ?」
指さした先にあるのは、スーパーボールすくいの中でひときわ輝いてる、電池仕掛けのLED入りボール。人気賞品で、しかも動きが速い。
ニアは無言で頷くと、すっとポイを取り上げた。
動きは速い。だが無駄がない。
水の揺れ、反射、角度──すべてを計算してから、音もなくポイを滑らせる。
そして──
「……取れました」
「すげぇ!それ俺にくれる!?」
「……。仕方ありませんね、あげます」
ニアがまるで当たり前のようにボールを差し出すと、マットは素直に受け取りながら、なんとも言えない顔で呟いた。
「俺ちょっとニアのこと好きかも……」
Bがすかさず口を挟んだ。
「ダメです、マット。ライダーは正義の味方です。『浮気』は禁止です」
「うるせぇ!B」
俺のツッコミなど目もくれず、Bは話を続けた。
「……ところで、その仮面。どこにあったんですか?」
笑い混じりにBはイチゴ飴を口に入れながら、くっくっくと喉の奥で静かに笑った。
「あの屋台の角です。金魚すくいの裏側──」
Lが屋台の先を指しながら淡々と答える。
Bは頷いて、すっと視線をメロに向けた。
「メロ、Bの仮面も買ってきてください」
「いや、お前の方が年上だろ……」
「年上は“人に頼る才能”も持っているんです」
「ふざけんな、Lに頼め」
ムッと拗ねたように口を尖らせると迷いなくLの方に向き──
「L先輩、私にも買ってください」
遠慮も無しにBはLに言い放った。
(すげえなこいつ。本当にLに頼んだよ……)
Lはというと、ひょっとこの面を半分ズラしたまま、
無表情でBの顔をじっと見た。
「……何の仮面をご希望ですか?」
「“Bに似合うもの”を、ぜひ」
「……分かりました」
──そして、数分後。本当にLは買ってきた。
「……買ってきました」
そう言って現れたLの顔には、仮面ライダーBLACKの重厚なお面がついていた。
「えっ……Lも被るの!?」
マットが笑いながら言うと、Lは仮面越しに頷いた。
「はい。正体がバレるとまずいので」
「余計目立つよ」
「ですが、“形式”としては有効です」
「まだ“ひょっとこ”の方が良かった……」
Lは動じることなく、袋の中から仮面を配り始めた。
「マットには仮面ライダー電王。メロには仮面ライダークウガ」
「嘘だろ、俺まで被るのかよ」
「いいじゃん!むしろ、顔隠してた方がいいぜ?」
俺たちの立場上それは否定しないし、それはそうなんだが……仮面ライダーって……。
「それで、B……あなたにはこれです」
Bは渡された仮面をじっと見つめ、素直に被ったあと言った。
「L──なぜBだけ悪役なのでしょうか?」
Lは即答した。
「似合うと思ったからです」
その言葉に、全員の空気が固まった。
「……今、なんか、トゲなかった?」
「L、わざとだろ」
俺が睨むと、Lは首をかしげたまま言葉を重ねた。
「仮面の印象は、その人の内面を反映することがあります。Bの内面は──“その幹部と近いものを”感じました」
しれっと、悪のボスに例えられるB。
「悪口ですか?」
「違います」
Lは食い気味で否定した。
Bは沈黙のまま、ゆっくりと仮面を上げた。
そして、顔の半分をのぞかせたまま──
「……くっくっく。やっぱり、Lはそう言ってくれないと面白くない」
Lも仮面の奥でニヤッと口角を上げた。
──そして、まるで何事もなかったかのように言い出す。
「……あっちにわたあめがありましたね。せっかくですから皆さんで食べに行きましょう」
そのまま、ニアの手を取って5人がそれぞれ、仮面ライダーやラスボスの仮面をつけたまま、屋台の間をぞろぞろと移動していくその様子は──
どう見ても“ヒーローショーの空き時間”。
「……ねぇ、ちょっと見て、あれ……」
「仮面ライダー……?」
「え?今のBLACKじゃない?」
「あっち電王じゃん!しかも敵もいる!?敵も一緒に歩いてる!!」
「バケモノもいるー!!」
「誰がバケモノだコラ!!」
メロが振り返ると、子どもたちはもう目を輝かせて駆け寄ってくる。
「すごーい!仮面ライダーだ!」
「勘弁してくれ……」
メロは顔を覆いながら、Lたちを見る。
しかし仮面ライダーBLACK(L)は、なぜか子どもたちに手を振っていた。
「こんばんは、皆さん。正義を信じていますか?」
真顔で語りかけるその姿に、子どもたちは一瞬きょとんとしたが──すぐに「はーい!」と元気に手を挙げて応えた。
その様子をしばらく眺めていたLは、ふと何かを思い出したように手を伸ばし、手に持っていたらあのひょっとこの面を渡した。
「これであなたも仮面ライダーです」
男の子は目をぱちぱちとさせてから、「……いいの?」と、ぽつり。
「ええ。仮面を被るというのは“覚悟”の証です。怖くても、迷っても。これをつければ、あなたは誰かのヒーローになれます」
子どもはしっかりと仮面を受け取り、胸にぎゅっと抱きしめた。
「ありがと……仮面ライダー……!」
「L……今、普通にいいこと言ってたよな」
「……それが“ひょっとこの面”じゃなければ完璧だったけどな」
そんな会話をしていた、そのときだった。
「──敵だっ!!」
子どもの中のひとりが、突然Bを指差した。
「ほんとだ!悪いやつだ!」
「やっつけろー!!」
数人の小さな正義が、突如として暴発した。
Bが振り向いたときには──
「ライダーキック!!」
「とおぉおおっっ!!」
ふいに飛びついてきた子ども達。ポス、ポス、と小さな拳がBの体にヒットしていく。
「やめてください、暴力は悪です。……助けてください、仮面ライダー」
「今休憩中です」
Lは隣で涼しい顔のまま、わたあめをもらう列にきっちり並んでいた。
「あなたを悪役にしたのは私ですが──責任は取りません」
「……なんて無責任な……悪だ」
Bは、仮面の奥から絞り出すように呟いた。
ポス、ポスと叩き続ける子どもたちの拳を甘んじて受けながら、静かに、ゆっくりと地面に膝をつく。
「これが……“正義”のやり方ですか?」
──と、その場にいたニアが、するりと前に出る。
冷静な声だったが、よく通る。
「正義は、“弱い者を守る力”です。今のあなたたちの行動は──ただ、数の暴力です」
ぴたりと子供たちの動きが止まる。
「えっ……」
「彼が“悪そうに見える”からといって、本当に悪いと決まったわけではありません。“仮面”で人を判断しては、いけません」
子どもたちが顔を見合わせた。
「……ぼくたち……悪いこと、しちゃったの?」
ニアは少しだけ間を置き、淡々と答えた。
「はい。あなた達は正義の仮面を被った──悪です」
そう言い切ると子供たちは泣きながらBには謝らず、ニアに謝った。
「なんでそっち!?」
「叩かれたのはBの方なのに、可哀想なB先輩」
そのとき。
「──どうぞ」
唐突に、目の前にふわふわのわたあめが差し出された。
Lだった。
仮面ライダーのまま、涼しい顔でわたあめを持ってきた彼は、言葉少なに、Bの手にそれを押し込んだ。
「戦いのあとは、糖分補給が必要です」
「……L……」
Bはわたあめを見つめた。
仮面の奥で、ほんの少しだけ口元を緩めたような気がした。
「ありがとうございます。L。悪役も、倒れたままでは終われませんね。これは……“慰め”だと思って、受け取っておきます」
「違います。ただの“餌付け”です」
「私はペットか何かですか」
Bは綿あめを手でちぎると、手ごと食べた。
「美味しいですか?」
「……はい。敗北の味がします……」
それを横目に見ていたニアが髪をクルクルさせながらボソッと一言──
「それ、ただのイチゴ味ですよ」