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テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで
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ライデン社会長のハヤト=ライデンである。我輩は今所用で帝国南部はシェルドハーフェン郊外にある町、黄昏を訪れている。この町は訪れる度に発展しているので飽きない。

町の拡大に合わせて周囲を取り囲む陣地も放棄され、東西南北の重要な箇所に集中的に戦力を配置する方針に切り替えたようだ。まあ、町全体を取り囲んでも全域をカバーするなど不可能であるからな。主要な場所を護れば良いのである。

シェルドハーフェンから黄昏へ続く街道は広く整備され石畳で馬車が四台並んでも余裕がある広さだ。左右には鉄条網が張り巡らされて通行するものを魔物から護っている。

帝国にはまだ区画整理などと言う概念は存在しないが、黄昏では試験的な導入されている。市街地、商業区、工業区が見事に分けられている。市内には縦横に整備された道が張り巡らされ、更にタクシーならぬ駅馬車も用意されている。規定のルートを回る馬車で、要所要所に停留所を設けている。料金は一律だ。何処で乗って何処まで行っても同じ値段。複雑な計算を省いたか。更に町中にある看板にら文字よりも分かりやすい絵が多用されている。合理的である。

帝国は日本と違い、文字を読める人は多くない。まして計算ともなれば尚更少ない。しかも黄昏は流民が大半だ。学がある人物などほとんど居ないだろう。文字よりも絵を多用してイメージさせるのは良い判断だ。

商業は黄昏商会を中心に活発に行われており、交易から得られる莫大な富は暁の躍進を陰ながら支えている。

巨大化しつつある町並みを眺めながら、我輩は一路工業区へ向かう。本日の来訪目的は、新設された我が社の工場を視察するためである。

マーガレットが随分と頑張ってくれて、工場は無事に完成した。石油が直ぐに手に入る環境であるから、動力源として試作段階のものも含め|内燃機関《ないねんきかん》を惜しみ無く設置している。同時に大型の工作機械も運び込んだのだ。その作業効率は帝都の工廠を遥かに上回る。

既に第二、第三の工場建設も予定されている。ここ黄昏では貴族の妨害も帝国法も意味がない。暁の、シャーリィ嬢の許可さえあれば好きに研究開発が出きる。ううむ、本社を此方へ移すべきであろうか?悩みどころであるな。

「なんだ、旦那。久しぶりだな」

「久しぶりであるな、ドルマン」

工場へ近付くと、暁幹部でドワーフのドルマンを見付けた。

暁の幹部であるが、工場長の地位を得ている。工場誘致の条件として、作業員には暁の人員を使うことが提示されたらしい。シャーリィ嬢としては、ライデン社の技術を余すこと無く吸収するつもりなのだろう。

それについては別に問題はない。今後百年の工業史が我輩の頭にあるし、協力者は大歓迎である。莫大な支援金を考えれば、技術の流出は問題にならん。シャーリィ嬢ならば、その目的以外に軍事技術を使うこともあるまい。なにより、技術革新は一人では成り立たん。

「アンタが黄昏に来る何て聞いてないが?」

「うむ、視察のためにお邪魔した次第である」

「そのフットワークの軽さ、まるで嬢ちゃんみたいだな」

「それは光栄であるな」

「で、その荷物は何だ? 視察に持ってくるようなものには見えないが」

私が抱えているケースを見て、ドルマンも気付いたようだ。ふっ、では御披露目といこうか。此方が本命であるからな!

「うむ、試作品が完成したので現物と設計図を持ってきたのである。優先して生産して欲しい」

ケースを開き、中身を見せるとドルマンも関心を寄せてくれたようだ。

「小銃か? いや、ボルトが無いな。これは?」

「ワルサーGew43、半自動小銃である」

半自動小銃としてはM-1ガーランドを試作しているが、あれは完全なオーダーメイドである。部品一つ一つまで手作業で丹念に作り上げた品だ。

百挺生産したは良いが、そのコスト及び時間はとてもではないが大量生産には向かない。

生産コストを見て烈火のごとく怒り狂った我が娘は、今思い出しても背筋が凍り付く想いである。美人の怒った顔は非常に怖い。我輩も一つ賢くなった。

とは言え、半自動小銃はボルトアクションライフルに比べ必要とされる技術水準が違う。これまで二十年以上掛けて熟成してきた工業力でなんとか、と言ったところか。

だが、この場所ならば大量生産が可能だ。工作機の燃料である石油が直ぐに手に入り、西部の鉱山地帯から地下資源を手に入れることも容易だ。更に言えば貴族の妨害を気にする必要もない。これほど恵まれた環境は無いだろう。

「半自動だと?」

「操作は簡単である。引き金を繰り返し引くだけだ。排莢動作は自動で行われる」

我輩の言葉は、ドルマンの瞳に知的好奇心の光を宿らせた。銃器に関心が強い彼ならば食い付くと考えていたのだ。

「やれやれ、今の小銃だってようやく解析が終わったばかりだってのに。もう新しい兵器を開発しやがったか」

「速射性はボルトアクションを上回るが、それ故に銃弾の消費が増えてメンテナンスも慎重に行わねばならんがね」

残念ながら、どうしても無理をした結果オリジナルよりも品質は僅かながらに低下している。M-1ガーランドに比べれば見劣りするのは避けられん。

とは言え、あれはマリア嬢に引き渡した物だけだ。問題にはなるまい。ああ、忘れるところだった。

「それとこれを」

差し出した設計図を受け取ったドルマンは目を細めた。

「こりゃあ……戦車の設計図か?それに何枚もあるな」

「次世代の戦車開発を計画していてね、設計図通りに作れば問題はない」

原材料や製鉄技術の問題でオリジナルに比べ性能面での低下は避けられまい。二十年、いや三十年掛けてようやく一部で一次大戦レベルか。

戦列歩兵の時代からすれば充分と言うべきか……悔いはあるな。

「旦那、どうしたんだ?」

「いや……シャーリィ嬢と十年早く出会えていればと思ったのである」

石油を始め、彼女の存在がライデン社の技術革新を後押ししたのは事実なのだ。

「そりゃ無理な考えだな。もし嬢ちゃんが十年早く生まれてれば、今頃どこかの貴族婦人やってるだろうさ」

「であろうな」

あの事件があったからシャーリィ嬢は裏社会へやってきたのだ。十年早ければ彼女は貴族婦人として優雅な毎日を過ごしていただろう。多少退屈に思いながらね。

……シャーリィ嬢は世界が意地悪だと称しているが、まさにその通りだな。我輩も年老いた。まだまだやりたいことはあるが、全て見届けることは出来まい。

いやはや、世界は確かに意地悪であるな。

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