テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
⚠️
全てが捏造、エモを目指したかったため少し長いです
kn … 『』
hb … 「」
↓
↓
↓
↓
__________________________________________________
警備の目を掻い潜り、いつも通り任務遂行のために前へと進んでいく。
閉館後の美術館は、昼間とはまるで別の場所みたいだった。
人の気配を失った静寂の中、足音だけがやけに響く。淡い非常灯に照らされた展示室は夜の海みたいに青く沈んでいた。
黒い外套を翻しながら、展示室の奥へ進む。
「……ま、今回も楽勝っしょ」
小声で呟き、視線を向けた先
厳重な警備の中央に飾られている、一枚の絵画。深い群青の背景。
その中で、一人の青年がこちらを見つめている。
絵画《サファイアの瞳》。
値段は億を超えるとも噂される名画だが、真に価値があるのは絵そのものではない。
青年の右目に埋め込まれた、本物のサファイアだった。
今日の任務はこのサファイアを頂戴すること。
ただ、吸い込まれそうなほど深い青色の輝きを放つ瞳に思わず見惚れてしまった。
絵画の前に立ち軽く口笛を吹く。
「綺麗な顔してんねぇ、お前」
当然、返事なんかあるわけがない。
だから次の瞬間――
『 それ、口説いてる?笑 』
そう声が返ってきた時、人生で一番驚いた。
「…………は?」
絵の青年が、ゆっくり瞬きをする。
『 … いや、めっちゃ固まるじゃん 』
「は!? え、ちょ、待っ……は!?!?」
青年はくすくす笑った。
絵の中だというのに、その笑い方は妙に生っぽい。
『 こんばんは。僕、風楽奏斗。んで、君は? 』
「……いやいやいやいや」
混乱したまま数歩後退する。
「んな急に自己紹介されても…絵が喋ってんの意味わからんって!」
『 いや僕もよくわかってない 』
「わかってないんかい!」
思わずツッコミを返してしまってから、ハッとした。駄目だ、完全にペースを持っていかれてる…
奏斗?は絵の中で頬杖をつきながら、面白そうにこちらを見ていた。
『 で? 怪盗さんは何しに来たの 』
「……仕事」
『 ふーん。この瞳? 』
図星だった。
言葉を濁し肩をすくめた瞬間、床がカチ、と鳴る。
「あ」
次の瞬間、展示室中に警報が鳴り響いた。
「え、ちょ … うそ」
赤い警告灯が点滅する。
完全に罠だった。
奏斗は悪びれもなく笑った。
『 あは、やっぱりそこ踏むと思った笑 』
「お前わざとか!?」
『 いやぁ、初対面の人を信用するほど優しくなくて 』
「っ、最悪……!」
遠くから警備員たちの足音が近づいてくる。
今日は一度戻ることにしよう、そう思い舌打ちしながら窓へ駆けた。
飛び去る寸前に振り返る。
絵の中の奏斗は、夜の静寂が崩れつつある展示室で一人こちらを見ていた。
『 また来る? 』
その声が妙に寂しそうに聞こえた。
俺は何も答えないまま、夜へ溶けた。
__________________________________________________
それから俺は何度も美術館へ通うようになった。
最初は情報収集のためだった。話す絵なんて異常だ、サファイアに秘密があるのかもしれない。
… けれど
「 今日めっちゃ警備ぬるかった 」
『 へぇ、じゃあ盗み放題じゃん 』
「 いや …… 今日は盗まねぇし 」
『 ありゃ、なんで? 』
「……話しに来ただけ 」
そんな会話をする頃には、目的なんてとうに変わっていた。
夜の展示室
静かな空気
他愛もない話 …
俺は外の世界を彼に夜通し語った。
深夜の街
屋上から見る景色
コンビニの新作スイーツ
雨の日のネオン
奏斗はそれを楽しそうに聞いていた。
『 いいなぁ 』
その度にぽつりと零す。
『 僕 、この中から出たことないから 』
それを言われるとこちらは何も言えなくなる。
… 奏斗は絵の中でしか生きられない存在だから触れることもできない。
隣に立つことすらできない。
なのに、
会いたいと思ってしまった。
「……なぁ奏斗 」
『 ん?』
「 もし外に出れたらさ、何したい? 」
少し考えて、静かに笑う。
『 夜の散歩とか笑 』
「 うわ地味… 」
『 は?いやでも絶対楽しいじゃん。コンビニとか行きたい 』
「 お前コンビニ好きすぎだろ笑 」
『 雲雀が楽しそうに話すから? 』
ああ、俺のせいか笑
… 胸が妙に苦しくなる。
俺は知ってしまっていた。
奏斗を動かしているのは、あのサファイアだ。
そして――
サファイアを取り出せば、この奇跡は終わる。
ただの絵の中の青年に戻ってしまう。
いつまで続けられるのだろう
_________________________________________________
ある夜
いつも通り近くの壁にもたれかかる。
が、珍しく黙っている俺を見て、奏斗が首を傾げる。
『 … どうしたのさ 』
「……ん、なぁ奏斗 」
今日は眩しいほど綺麗な瞳を直視することができなくて視線を逸らしたまま言う。
「 もしさ。俺がお前を普通の絵に戻せるって言ったら、 」
「 … いや、お前をただの絵にしないといけなくなったって言ったらどうする? 」
空気が止まる
奏斗は静かに瞬きをした。
『 ……そっか 』
驚くほど穏やかな声だった。
『 やっぱり、この石なんだ 』
「……多分」
『 じゃあ取ればいいじゃん 』
即答だった。
あっさりしすぎていて思わず顔を上げる。
「 は? 」
『 だって、それがお前の仕事でしょ 』
「 そういう話じゃねぇよ! 」
思わず声が荒くなる。
展示室の静寂が揺れた。
俺は時間をかけすぎてしまったのだ。
本当は初めてこの美術館に来たときに彼の瞳を盗って帰らなければいけなかったのに
いつも通り盗っていればよかったのに。
「 … お前、消えるかもしれねぇんだぞ 」
奏斗は少しだけ目を細めた。
『……』
『 僕さ、ずっとここにいるだけだったから。夜が来て、朝が来て…それの繰り返し 』
怖いほど静かな声で
『 でも雲雀が来てくれて楽しかったよ 』
その笑顔が優しすぎて、痛い。
その場でぎゅっと拳を握った。
盗めば終わる。
盗まなければ、この関係は続く、
でもそれは奏斗を永遠に絵の中へ閉じ込めることでもあった。
「……っ、なんでそんな顔で笑うんだよ」
『 雲雀が泣きそうだから 』
「 泣いてねぇし 」
『 うそつき笑 』
しばらくの沈黙
やがて、震える指を伸ばした
絵の中のサファイアへ。
奏斗も逃げなかった。
ただ静かに、俺を見ていた。
『……ありがと 』
あまりにも簡単に宝石が外れる
青い光が、展示室いっぱいに広がった。
奏斗の輪郭が揺れる
消えていく
俺は咄嗟に叫んだ。
「 っ 、奏斗!」
奏斗は最後に、いつもの調子で笑った。
『 また夜の散歩の話、聞かせてよ 』
なんて、またがないなんてことはわかっているくせに。
光が消える
静まり返った展示室には、ただ一枚の絵だけが残されていた。
そこに描かれた青年はもう動かない。
笑いもしない。
ただ、少しだけ優しい目をしていた。
… 長い間、その絵の前から動けなかった。
任務は成功したはずなのに胸の中にはぽっかり穴が空いている。
やがて夜明けが近づく_____________
717
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!