テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
鷹槻れん

20,037
鷹槻れん

35,405
#恋愛
水無月 京
1,300
#オフィスラブ
草原草原

1,286
「冴実、お待たせ」
待ち合わせの時間よりも早く着いた私が店内で待っていると、しばらくして加那太が現れた。
いつも家で見るジャージ姿とは違い、今日はダウンコートの下に洒落たオフホワイトのシャツを着ていた。
「急に誘って悪いな」
「ううん。私はいいんだけど加那太は明日から実家でしょ? 大丈夫だった?」
「ああ」
前に会ったときに、たしかそう言っていたはず。
加那太はあまり家族の話はしてくれないけれど、もうすぐ卒業だし、たまには顔を見せに行こうとしているのだろう。
「ワインでも飲む? 冴実はすぐ酔うから一杯だけな」
「え、どうしたの?」
「外でこうして食事したかったんだろ?」
私がコクリとうなずくと、加那太はコース料理と共にグラスで赤ワインを注文した。
週末に彼の部屋で会えるだけでも私は幸せだったけれど、本当はこんなふうに外で食事を楽しむこともしたかった。
今日は仲直りのために彼が私に合わせてくれた。そう考えるとうれしくて自然と顔が綻んでくる。
しばらくするとワインがテーブルに届き、ふたりで乾杯をした。
料理もおいしくて、自然と笑みがこぼれる。
「おいしいね。来月の加那太の誕生日にも来れたらいいな」
たまにでいい。クリスマスや誕生日などの記念日にレストランで食事をすると、普段とは違った気分を味わえる。
私はコースの最後に運ばれてきたクリームブリュレをスプーンで口に運びながらにっこりと微笑んだ。
「冴実、実は……今日は話があったんだ」
「なに?」
食事が終わってから話そうと加那太は最初から決めていたのだろう。
手にしていたスプーンを置き、ナプキンで口元を拭った。
「俺と別れてくれ」
ずっと笑顔を絶やさないようにしていたものの、彼の言葉を聞いた途端、さすがに顔が引きつった。
本当は食事をしている途中から、加那太らしくない行動の裏にはなにかほかの意図が隠されているような気がしてならなかった。
だけど私はそれに気付かないフリをして、彼はこの前の喧嘩を詫びたいだけなのだと思い込もうとしていた。
結局喧嘩のことについては私も彼も謝ってはいないのだけれど。
「どうして?」
私の問いかけに、加那太は言いにくいのか下唇を噛んだ。
たしかに喧嘩はしたけれど、別れると決断をするほどまでの事柄だっただろうか。
お互いにヒートアップしないように私はあの日早々に帰ったし、少し言い合っただけなのに。
「ほかに好きな女ができた」
取って付けたような理由を耳にし、私は小さく首を横に振った。
「ウソだよね」
「本当だ。相手は百合菜。俺たちが知り合った合コンに来てただろ? 冴実とは同じ大学で友達みたいだからなかなか言い出せなかった」
「ちょっと待って。百合菜とずっと連絡し合って……ふたりで会ってたの?」
百合菜はたしかに私の友人だけれど、いつも一緒に遊ぶほどの仲の良さではない。だからそんな話は初耳だ。
加那太は最初からやましい気持ちがあったから、私には一切告げずにこっそりと百合菜と会っていたのだと思う。
卒論があるから忙しいと言っていたのはウソかもしれない……私を騙していたのかもと疑念が生まれる。
もしかしたら最初からずっと二股されていたのではないかと、最悪なことまで考えが及んだら頭が痛くなってきた。
それとも百合菜とは最近になって親密な関係になったのだろうか。先日、加那太の部屋が片付いていたのがその証拠のような気がする。
「加那太は私と別れて百合菜と付き合うの?」
「ああ。ふたりでそうしようって決めた」
加那太の発言が信じられなくて、大きくかぶりを振った。
だとしたら百合菜は以前から加那太のことが好きだったということになるが、大学で彼女と顔を合わせてもそんな様子は見受けられなかった。私に言えずに隠していただけかもしれないけれど。
コメント
1件
ああ、これは…。デートの温かい空気から一転しての「別れてくれ」、しかも相手が共通の友人って、冴実の立場で読んでると胸が締め付けられるよ。騙されてたかもって疑念が頭をよぎるのも辛いな…。加那太の理由が「好きな人ができた」って取ってつけた感じなのも余計に不誠実に響く。現実にあったら本当にしんどいだろうな。続き、どうなるのか気になるわ。