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#学パロ?
44
ユイ
51
キィィィィン……と不快な金属音を立ててプロペラが止まり、激しい爆音がようやく静寂へと変わった。
風防を開けた瞬間、ラバウルの湿った熱気と、懐かしいガソリンの匂いがコックピットに流れ込んでくる。
「……生きてる」
操縦桿から手を離した瞬間、全身の力が一気に抜けた。指先が自分のものじゃないみたいに細かく震えている。
座席から這い出すようにして翼の上に足をかけると、下から油まみれの大きな手が僕の体をがっしりと受け止めた。
「お疲れさんでした、速中少尉殿! いやぁ、無事で何よりです!」
斉藤整備兵曹だった。彼は僕の顔を見るなり、本当に安心したようにクシャクシャの笑顔を浮かべ、僕の飛行服についた煤を大きな手で乱暴に払ってくれた。
隣の機体からは、大石がガタガタと震える足で地面に降り立ち、その場にへたり込んでいた。
「死ぬかと、思いました……」
と呟く大石の肩を、坂井一飛曹が歩み寄りながらバシバシと叩く。
「バカ野郎、死んでたまるか。ほら、生きて帰ってきたんだ、笑え笑え!」
坂井さんはいつも通りの豪快な笑い声を上げながら、僕たちの元へやってきた。
そのすぐ後ろを、西沢一飛曹が何事もなかったかのように無口なまま、けれど少しだけ満足そうな目で僕たちをチラリと見て通り過ぎていく。
「速中、大石。よくついてきたな。及第点だ」
飛行帽を脱ぎ、爽やかな風に髪を揺らしながら笹井中尉が歩み寄ってきた。
「あそこの回避、兵学校の教科書通りだったぞ。まあ、実戦じゃあんな奇麗事は通用しないが……生きてるんだから上出来だ」
そう言って、中尉は僕の頭をポンと叩いた。昼間の完璧な上官の顔から、昨夜のあの「優しい兄」のような顔に戻っていた。
「宮部さん、今日も世界一安全な機体をありがとうございました」
少し離れた場所で、斉藤整備兵曹が宮部一飛曹に深く頭を下げていた。
宮部一飛曹は、飛行服を丁寧に整えながら、いつも通りの腰の低いお辞儀を斉藤さんに返している。
「ええ、斉藤さん。あなたのおかげで、今日も無傷で妻と娘の元へ一歩近づけました。本当に感謝します」
その横顔には、空の上で見せたあの冷徹な「絶対防御」の死神の面影はどこにもなかった。
まるでお盆に実家へ帰ってきた心優しい長男のような、そんな穏やかな佇まいだった。
宮部さんは僕と目が合うと、ふっと目元を和らげて歩み寄ってきた。
「速中少尉殿。今日の空、怖かったでしょう」
「……はい。死ぬほど、怖かったです」
見栄を張る余裕なんてなかった。正直に白状すると、宮部さんは小さく頷いた。
「それでいいのです。恐怖を知らない者は、この空ではすぐに命を落とします。臆病でいることこそが、生き残るための最大の武器なのですから」
宮部さんの言葉を、今度は誰も笑わなかった。
景浦一飛曹さえも、少し離れた日陰で不機嫌そうに煙草をふかしながら、何も言わずに遠い空を見つめていた。
怪物たちに囲まれた、地上の静かな夕暮れ。
生き残った喜びと、紙一重の死の恐怖が混ざり合った、酷くしみじみとした時間が基地を包み込んでいく。
この時は、ただ、この温かい地上に帰ってこられたことが愛おしかった。
この人たちと過ごすこんな穏やかな日々が、いつまでも続くような、そんな錯覚さえ覚えていた。
コメント
3件
うわああ、生きて帰ってきた…!第11話、めっちゃ沁みたよ😭💕 爆音が静寂に変わった瞬間の「生きてる」の一言が、もう胸にグッときたよ…。斉藤整備兵曹のクシャクシャ笑顔とか、宮部さんの「怖かったでしょう」の優しさとか、地上での温かさと空の冷たさのギャップがエモすぎる…! 「恐怖を知らない者は命を落とす」って台詞、めっちゃ刺さった。この人たちとの平和な日々が続くと思いたいけど、戦争ものだからこの後の展開が怖いよ…次話も絶対読むからね!!🌸✨