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炎天下が続く日、僕は教室に忘れ物をしたため、放課後に取りに行った。
夕日に照らされている静かな教室。この教室はいつも洗練されている。綺麗に並べられている机に、粉ひとつない黒板。しかし今日は違った。机の上にノート一冊が置いてあった。
「あれ、ここって…」
その席は西城さんの机だった。ノートには、“西城”と記されてあった。何を血迷ったか、僕の手は気づいた時にはそのノートに触れていた。うるさいくらいに時計が時を刻む音と、自分の心臓の音だけが聞こえる。息を呑み、震えながら1ページ捲ると、そこにはページびっしりに文字が書いてあった。一行目から急いで読もうとした時、心臓の音は限界に達する。
「何しているんですか」
そこには西城さんが立っていた。僕は慌ててノートを閉じる。顔中が熱くなり、震える足で
情けなく立つ。西城さんが僕に近いで言葉を続ける。
「それ、私のノートです」
そんなことはわかっている。僕の頭はなんて言い訳をしようかと考えることしかできなかった。
「あ…ごめ」
まずは謝ろうと口を開いた瞬間、西城さんはノートを取り、いや、僕には急いで奪うように見えたが、そのまま帰ってしまった。僕がノートを見ようとしていた理由を、彼女は聞かなかった。もし聞かれていたら、僕はなんて答えていたのだろうか。
そして僕が言い訳を必死に考えていたあの一瞬、西城さんの口角は少しだけ上がっていたかのように感じた。
ノートの一行目には、“21”という数字と“夢”らしい漢字が書いていたような。いや、冷静になれ自分。なぜ生徒のノートを勝手に見た?そして、なぜノートの内容が気になる?それは…きっとノートの持ち主が西城さんだからだ。得体の知らない彼女の素性を、教師として知っておきたいのだ。呑み込まれる前に。
聞き覚えのある声に、僕はハッとして起きる。
「珍しいね、寝坊なんて」
優しい声で語りかけてくるのは僕の奥さんだ。
寝起きなのに今日も綺麗だ。
「おはよう。昨日ちょっと寝れなくてさ。」
彼女はいつものようにコーヒーを僕に渡して、ソファに座る。心配そうな彼女の顔を見て、僕は咄嗟に提案をする。
「今度の休み、カフェに行こうか」
そう言うと彼女は笑顔で頷いた。この無邪気で可愛い笑顔を見ると、仕事の疲れなんて吹っ飛ぶ。僕はそんな彼女の頭を撫でてからスーツを着た。