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「はい…。でも茉奈は、私に直接そういった能力があるのも言いませんし、もちろん私の目の前で使う事もありませんでした。たぶん私に心配をかけないようにしていたんだと思うんです。それに、病気になったうえに普通の子じゃないってわかったら私に嫌われるんじゃないかと思ってたに違いありません。だから今度、あの子と話す機会があったら伝えて欲しいんです」
「ぼっ、僕でよければ…」
【ねぇ、お兄ちゃん…】
【まっ‥茉奈ちゃん? どうしたの?】
【お母さんに伝えて欲しい事があるの。私、明日死んじゃうから時間がないんだよね…】
【茉奈ちゃんが自分の口で言った方がいいんじゃないの?】
【お母さんと話したら死にたくなくなっちゃう…。死ぬのが怖くなっちゃう…。だからお願い…‥】
【わかった。伝えとくよ】
【ありがとう、お兄ちゃん】
【それで何て伝えればいいの?】
【うん…。“お母さん、今まで育ててくれてありがとう。お母さんの子供に生まれてきて本当によかった。もっとずっと一緒にいたかった。茉奈の成長する姿を見せてあげたかった。それと…ごめんなさい。いつも心配ばかりかけて、悲しい思いもさせて…。お母さんより先に死んじゃって…。本当にごめんなさい…。最後になるけど、身体に気を付けてずっとずっと長生きしてね!”お兄ちゃん…こんな感じで伝えて】
【伝わったと思うよ】
【えっ!?】
僕は握りしめていた茉奈ちゃんの母親の手を離した。
そして、僕のもう片方の手を握りしめていた葵さんの手も離した。
何故2人と手を繋いだかというと、耳元で葵さんに、茉奈ちゃんの母親の手を握るように言われたからだ。
きっと葵さんの能力で僕と話す茉奈ちゃんの言葉を伝えたのだろう。
「伝わりましたか?」
「はっ‥はい。うぅぅぅ……」
すると茉奈ちゃんの母親は、泣きじゃくりながら突然走り出した。
僕と葵さんも、後を追って走った。
そして、集中治療室の中に入ると、ガラスの向こう側には茉奈ちゃんの母親がいた。
茉奈ちゃんの手を握りしめ、ベッドの横で泣き崩れていた。
僕たちも茉奈ちゃんのベッドの近くまで歩み寄った。
「茉奈…お母さんは、あなたの事が世界で一番大好きで、一番大切なんだよ…‥
茉奈はお母さんの全てなの…‥
茉奈がお母さんの生きがいなの…‥
茉奈がいない世界をどうやって生きていけばいいの…‥
茉奈、どこにも行かないで…‥
ずっとお母さんのそばにいてちょうだい…‥」
茉奈ちゃんの母親の顔は、涙でグチョグチョになっていた。
「茉菜…お母さんの子供として生まれてきてくれて本当にありがとう。
でも、こんな身体に産んでしまって本当にごめんね。
代われるものなら代わってあげたい…‥
お母さんが全部悪いの…‥
こんな駄目な母親の子供に生まれてこなければ、きっと幸せな人生を送れたばずなのに…‥
お母さんの事、恨んてちょうだい…‥
気が済むまで恨んで…‥
もし…あっちの世界で寂しくなったら言いなさい。いつでもあなたの所に行くからね…‥」
【私…やっぱり死にたくないよ。死にたくない…‥
死ぬの怖いよ…‥】
【茉奈ちゃん…】
茉奈ちゃんの声が、他の2人に聞こえていたかどうかは定かではない。でも、茉奈ちゃんの母親と葵さんが抱き合い、声をあげて泣いている姿を見て想像に難くはなかった。
僕は、何も出来ない自分の無力さが情けなくて…悔しくて…何度も何度も自分の足に拳を打ちつけた。
それから、しばらくして僕と葵さんは病院をあとにした。