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「いやー、俺も驚いたよ。今朝に突然、連絡があってな……」
そう言いながらダグラスさんは、1枚のカードを私の前のテーブルに置いた。
手に取ってみると、今持っている錬金術師ギルドのカードよりも、少しだけ豪華なカードだった。
装飾が少し多い程度なんだけど、ランクのところには『S』と刻まれている。
「おぉ……、これは……」
「うん、新しいSランクのカードだ。今持っているカードは回収するからな」
「あ、そうですね。それではよろしくお願いします」
そう言いながら、今まで使っていたS-ランクのカードをダグラスさんに渡す。
何となく寂しいような気もするけど、ここは切り替えて、新しいカードをお迎えすることにしよう。
「はい、確かに。
アイナさんは知っていると思うが、S+ランクは3人、Sランクは7人、S-ランクは10人の定員だ。
これで名実ともに、世界の上位10人に入ったことになるぞ!」
「それは嬉しいんですけど……、何で急に?」
「いや……。俺も今朝、突然ギルドマスターから言われてな。
どうも、王国の方から強い推薦があったようで……」
「王国から?」
「俺も詳しくは分からないんだが、アイナさんは王族の依頼もたくさん受けているし……。
あと、調達局の方で一定の成果を上げたって聞いたぞ。何かしたのか?」
「1回だけ依頼を受けたことはありますけど、大したものでは無かったですよ?
まぁ、品質はいつもの通りでしたが」
「うーん、そうなのか……。
いつもの通りってことは最高品質だろうから……、それが認められたのか……?」
「さて……?
ところで私のランクが上がったっていうことは、誰かが下がったってことですよね?
勝手に話が進んでいて、何だか申し訳ないというか……」
「あ、そこは気にしなくても良いぞ。
一緒に連絡があったんだが、王国に仕えていたSランクの錬金術師が引退したっていうことだから」
「引退?」
「自分の研究に没頭するあまり、他の仕事を全然やっていなかったそうでな……。
その研究も上手くいっていなかったようで、そこら辺を理由に錬金術師を引退、って話だ」
なるほど……?
話を聞く限り、何となくクビにされたような印象も受けるけど――
……まぁ邪推しても仕方がないし、それはそれで受け止めておこう。
「それでは、遠慮なくSランクを拝命いたします。
ちなみにS-ランクと、何か違うんですか? Sランク以上の依頼っていうのがあったり?」
「いや、特には無いぞ」
「えーっ」
「正直なところ、実質的な差は無い。
冒険者ギルドだったら、『英雄』への挑戦権ができたりするんだけどな」
「え? 英雄への……?」
「ああ。冒険者ギルドでSランク以上になると、所有者のいない神器の試練を受けることができるんだ。
神器の装備条件には『英雄であること』っていうのがあって、それをクリアすれば神器を所有できるようになるって寸法だ。
……今は全部に所有者がいるから、誰も挑戦できないんだけどな」
「はぁ、そういうのがあるんですね。
神器に認められた人が『英雄』になる……と」
「もちろんそれ以外でも、偉業を達成した者は『英雄』と呼ばれることがある。
ただ、そういったことをしなくても、神器にさえ認められれば『英雄』になれてしまうのさ」
「へぇ……?」
「ま、神器の力を使えば偉業を達成することなんて容易いだろうがな。
そもそも、その力を手にすること自体が凄いんだから」
「……確かに」
「おっと、話が逸れてしまったな。申し訳ない。
それでは改めて、おめでとう。今後ともよろしく!」
「あ、はい。
こちらこそ、よろしくお願いします!」
「よーし、ここからは依頼の話をするか!
今あるやつは、これくらいだったぞ」
ダグラスさんがテーブルに置いた依頼書を数えると、21枚あった。
今回は『賢者の石』とかの依頼はちゃんと抜いてあるし、受けられるものは全部受けていこうかな。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「――ただいま戻りました」
「お帰りなさあああああああああああいっ!!」
「わぁっ!?」
ダグラスさんと受付に戻ると、テレーゼさんの大声と、突然の大声で驚いたエミリアさんの声が迎えてくれた。
「おい、テレーゼ。その大声、何とかならんのか」
「なりません!」
「いや、『何とかしろ』って意味だったんだが……」
「それはそれとしてですね」
「するなよ!!」
「アイナさん、通達って何だったんですか?」
ダグラスさんを無視して、遠慮なく聞いてくるテレーゼさん。
彼女らしいと言えば彼女らしいけど、悪い知らせだったら気まずくなるところだよね……。
今回は良い知らせだったから、問題は無いんだけど。
「えーっと、昇格しました」
そう言いながら、受け取ったばかりのカードをエミリアさんとテレーゼさんに見せてみる。
少しだけエミリアさんに、見やすく出したのは内緒だ。やっぱり近い人ほど、先に教えたくなるものだしね。
「わ、凄い! Sランクですか!!」
「うおおおおおお、アイナさん凄おおおおおおいっ!!」
普通に驚くエミリアさんと、大声で驚くテレーゼさん。
会話中までこのテンションでいられるのは、少しつらいかもしれない。
「テレーゼさん、まずは落ち着きましょう」
「えぇ……!? ……しゅーんっ」
よく分からない言葉と共に、テレーゼさんはクールダウンを試みていた。
故意にシュンとするような掛け声を……? テレーゼさんって、たまに良く分からない言動をするよね。
「でも、本当に凄いですよ! これはしっかりお祝いをしないと!」
「お祝いですか!? パーティですか!?」
エミリアさんの言葉に、テレーゼさんが強く食い付いてきた。
いやいや、パーティなんてするほどのことでも――
「お、いいな!
アイナさん、パーティをするなら俺も呼んでくれよ!」
「あ、主任ばっかりずるい! 私も参加します!!」
「……あの? パーティをするだなんて一言も……」
そう言いながら、救いを求めるようにエミリアさんを見ると――
「良いんじゃないですか? とっても楽しそうです♪」
……味方から、背中に攻撃を食らった気がした。
「うーん……、ただの食事会くらいなら、まぁ……。
それでも良いですか?」
「私は大丈夫ですよ! アイナさんのお屋敷にも行ってみたかったですし!」
「俺はついでに、アイナさんの工房も見てみたいなぁ。
どんなところで作業をしているのか……、ってな」
むむ、工房の設備は特に使っていないんだよね……。
……招待する前に、大釜くらいは使って使用感を出しておかないといけないかも……?
「それじゃ、次に来たときに食事会の予定をお伝えしますね。
日時は、夜ならいつでも大丈夫ですか?」
「うん、それで頼む!」
「仕事が残ってても行きますので!」
テレーゼさんの言葉に、ダグラスさんが冷たい視線を浴びせたものの、テレーゼさんは|頑《かたく》なにダグラスさんの方を見ようとしなかった。
このパターンも、何だか慣れてしまったなぁ。
「分かりました、それではまた後日。
今日はそろそろ帰りますね」
「うん、お疲れ様!」
「また早く来てくださいねー!」
二人に挨拶をしたあと、出口に歩きながら、これからの予定をエミリアさんと話す。
「アイナさん、これから白兎堂に行く元気はありますか?」
「あ、はい。大丈夫ですよ!」
そう言うや、後ろの受付の方から声が聞こえてきた。
「あれっ!? アイナさんたち、白兎堂に行くんですか!?
それなら私も――」
「お前は仕事中だろっ!!」
「ひぇっ!?」
――今日も錬金術師ギルドは平常運転である。
錬金術師ギルド……というか、テレーゼさんが、かな?
でも、それなりに離れていたのに……、よく聞こえたなぁ……。