「違うの?」
「ちっ、違わないよ」
母さんは俺を直視すると、決して視線を外そうとはしなかった。それは法廷で見せる、何もかも見透かしてしまいそうな強く鋭い視線だった。俺は怖くなり、さりげなく目を反らした。
「その言葉を信じていいの?」
「もちろんだよ」
「そう――それなら私も圭太の親としてあなたの力になるわ」
「あっ、ありがとう――」
「1度、マナさんに家に来てもらって、お話をしましょう」
「母さんまで巻き込んでしまって本当にごめん」
「そんなことはいいから、これからマナさんと、どう付き合って行くのかをよく考えなさい!」
「わかった――」
母さんの言葉の意味は、これからもマナとの付き合いを許すというものではなく、どう決着をつけて別れるのかというものなのだろう。
「お金の心配は要らないわ。母さんの知り合いのお医者さんがやっている病院があるから、全て任せなさい」
「あっ、ありがとう」
「ただし条件があるわ」
「条件?」
「そう、条件よ。高校を卒業したらT大学に入学して将来は検察官か弁護士になりなさい。だから夢は諦めなさい!」
「夢を――夢を諦めろっていうの?」
「そうよ、それが条件よ。それ以外は認めないわ。マナさんを守りたかったら、こっちの条件もむことね」
両親以外には言っていなかったが、俺の将来の夢は医者になることだった。俺が医者になりたいという夢を両親は以前から反対していた。自分たちと同じ検察官や弁護士にさせたかったからだ。でも俺は従うつもりはなかったし、両親も許すつもりはなかったようなので、話し合いは平行線のまま時は流れていた。まさか、こんな形で夢を諦めることになるかもしれないなんて想像もしていなかった。でも、マナを守るためには選択の余地など俺には残されていなかった。
こうして母さんの協力のもと、全ては解決へと向かうはずだった。マナがあんなことを言い出すまでは――。
翌日の放課後、ゆずきにマナを学校の屋上に連れて来てもらった。ゆずきは俺が何をしようとしているのかをわかっているせいなのか、不機嫌そうな態度を終始とっていた。
「圭ちゃん、何かよう? 忙しいんだけど」
「マナ、大事な話がある」
俺はそう言ったあと、ゆずきの顔を見た。でも、ゆずきは目を合わせようとはしなかった。
「それより、その顔の傷どうしたの?」
「ちょっと階段でつまずいて転んだ時にな――」
マナはここ2日~3日保健室で過ごしていたので、俺と面と向かって話すのは数日ぶりだった。だから俺の顔の傷を見るのは初めてだった。
「マジで? 大丈夫? 圭ちゃん、いつも私に気を付けろって言ってるけど自分だって結構そそっかしいんじゃん。人のこと言えないよね。っていうか、チョーウケる。ホントバカなんじゃないの」
「あぁ、俺もかなりドジだよな。気を付けなきゃいけないな」
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