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若井のポケットで、スマホが震える。
着信。
画面に表示された名前を見て、
若井の指が一瞬、止まる。
――元貴。
若井は一度だけ涼ちゃんを見る。
大丈夫か、って聞く代わりに、
そっと視線で確認してから、電話に出た。
「……もしもし」
『若井?』
元貴の声は、いつもより少し低い。
忙しさと、苛立ちと、心配が混ざった声。
『今どこ?』
「今、涼ちゃん家」
短く答える。
一瞬、沈黙。
『……体調は?』
若井は、ほんの一拍置いた。
「最近はちょっと良くなったと思う。」
それ以上は言わなかった。
電話の向こうで、元貴が息を吐く音。
『そっか……』
『無理させるなよ』
その言葉に、若井の胸が少しだけ締まる。
「分かってる」
『……でさ』
元貴は、言いにくそうに続ける。
『いつ頃、戻れそう?』
その質問が、
夜の空気に、はっきり落ちる。
若井は、涼ちゃんから少しだけ視線を外す。
「……もう少しだけ」
「今日明日は、俺が見る」
『若井』
名前を呼ばれて、若井は動きを止める。
『お前まで潰れたら、意味ないからな』
正論だった。
分かりきってる言葉だった。
「……分かってる」
同じ返事しかできない。
電話の向こうで、
元貴が何か言いかけて、やめた気配がした。
『……じゃあ』
『明日また連絡する』
「うん」
通話が切れる。
夜の静けさが、戻ってくる。
虫の音と、遠くの車の音だけ。
若井がスマホを下ろすと、
涼ちゃんは下を向いたまま、ぽつりと言った。
「……元貴?」
「うん」
「……怒ってた?」
若井は、すぐには答えなかった。
その代わり、涼ちゃんのすぐ隣に立つ。
「怒ってるっていうか」
「……必死なんだと思う」
涼ちゃんは、小さくうなずいた
「……そうだよね…」