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『偽りの無能、真の覚醒〜転生皇女はすべてを奪い返す〜』
アルベルトお兄様とバロア王国への「受け入れの罠」を計画した、
その日の深夜。
事態は、私が考えていたよりも早く、そして狡猾に動き出していた。
バロア王国は、ただ無様に帝国へ泣きつきに来るほど、プライドを捨てきってはいなかったのだ。
彼らは裏で、ある極秘の作戦を進めていた。
『帝国の弱点である、病弱な第一皇女ローゼマリーを暗殺、あるいは人質として拉致し、外交交渉をこちらに有利に進める』
という、あまりにも愚かで無謀な計画を――。
そしてその計画の実行犯が、今、私の寝室へと忍び寄っていた。
月明かりすら届かない漆黒の寝室。
私は自室のベッドで微かな『空気の歪み』を察知し、静かに目を開けた。
天井の隅から、音もなく滑り落ちてくる一条の影。
気配が完全に消されている。
通常の魔導師であれば、首を刎ねられるその瞬間まで気づくことすらできない、極限まで洗練された暗殺の技。
シュッ――。
闇を切り裂く微かな風切り音と共に、黒い毒刃が私の喉元へと肉薄する。
(――遅いわ)
私が心の中で呟いた瞬間、私の身体から溢れ出た紫色の魔力が、
自動的に強固な『氷結の結界』を形成した。
ガキィィィン!!!
激しい金属音が響き、火花が散る。
驚いたのは私の方だった。
ダンジョンの魔獣たちなら触れるだけで粉砕していた私の結界が、
その暗殺者の刃によって、表面にピキリと小さな亀裂を入れられたのだ。
「ほう……。無能と聞いていたが、自動展開の魔力障壁か。少しは手ごたえがありそうだな」
闇の中から聞こえたのは、低く冷ややかな女の声だった。
影の中から現れたのは、全身を黒い夜装に包んだ、しなやかな体躯の暗殺者。
その刃には、掠っただけで巨象すら即死するバロア王国特有の
『吸血鬼の毒』が塗られている。
「バロア王国が放った影ね。
交渉を有利に進めるために私を狙うなんて、あの国もずいぶんと浅はかだわ」
私はベッドからゆっくりと立ち上がり、冷徹な瞳で彼女を見据えた。
ローゼマリーの記憶が告げている。
彼女はバロア王国の王家直属の暗殺部隊
『黒大蛇(ブラック・コブラ)』の筆頭、通称『毒蜘蛛』と呼ばれるSランクの暗殺者だ。
「フッ、お喋りはそこまでだ、皇女殿下!」
暗殺者は不敵に笑うと、瞬時にその姿を消した。
自身の魔力を完全に遮断し、周囲の影と同化する高等隠密魔術。
次の瞬間、私の背後、真上、そして足元から、同時に三本の毒刃が襲いかかる。
確かに、今までの雑魚とは比べものにならない『手ごたえ』だ。
だが――。
「私の魔力の海の中で、影に隠れられると思っているのかしら?」
私は一歩も動かず、ただ静かに指先をパチンと鳴らした。
ドクン……!
私の心臓の鼓動と共に、部屋全体の空間そのものが、一瞬で私の魔力によって支配された。
影と同化していたはずの暗殺者の身体が、凄まじい魔力の圧力(プレッシャー)によって強制的に空間から弾き出される。
「がはっ……!? なん、だ、この……化け物じみた、魔力量は……っ!」
暗殺者は床に激しく叩きつけられ、口から鮮血を吐き出した。
彼女の放った三本の刃は、私の肌に触れるよりも早く、空中でガチガチに凍りついて粉々に砕け散っている。
「バロア王国のカイルたちが、私を殺せと命じたの?」
私が冷たく問いかけながら近づくと、暗殺者はガタガタと震えながらも、
奥歯の毒薬を噛み砕こうとした。
「死なせないわ」
私が冷然と呟いた瞬間、彼女の顔全体が薄い氷の膜で覆われた。
顎の筋肉が完全に凍りつき、彼女は毒薬を飲み込むことすら許されない。「お兄様、入ってきて頂戴。ネズミは捕まえたわ」
私が声をかけると、部屋の扉が勢いよく開いた。
現れたのは、凄まじい殺気を放ち、
目を血走らせたアルベルトお兄様だった。
背後には、心配そうにこちらを見るリンの姿もある。
「ローゼマリー……! 無事かい!? ああ、不覚だ、僕の結界を潜り抜けて君の寝室に侵入する者がいるなんて……っ!」
アルベルトは床に転がる暗殺者を一瞥すると、
冷酷な魔導師の瞳で彼女を睨みつけた。
「この虫ケラめ。
僕の愛しい妹に刃を向けた罪、万死に値する。今すぐ魂ごと焼き尽くしてやる――」
「お待ちください、お兄様」
私はお兄様の前に立ち、そっとその手を握って宥めた。
「この者はバロア王国の最高峰の暗殺者です。簡単に殺してはもったいないわ。
……この者の影に、私の魔力を仕込んで、バロア王国へ送り返すのです。」
「君の魔力を……?」
「ええ。この者がバロア王国のカイルたちの元へ戻り、復命するその瞬間
……彼らの目の前で、私の仕込んだ魔法が暴発するように。
カイルとエレンに、本物の恐怖の始まりを告げる『動く爆弾』にしてあげるのです。
これなら、数日後にやってくる彼らの使節団への、最高の牽制になるでしょう?」
私の提案を聞いたアルベルトは、一瞬呆気にとられた後、
歓喜に震えながら邪悪に微笑んだ。
「素晴らしい……! 君はどこまで聡明で、冷徹な薔薇なんだ。分かった、この者の精神を僕の精神魔法で徹底的に破壊し、
君の魔法の『器』に仕立て上げよう」
床に転がる暗殺者は、声も出せないまま、
ただ恐怖の涙を流して絶望していた。
前世で私を無力だと笑ったカイル、エレン。
あなたたちが放った刺客は、今度はあなたたちを滅ぼすための最凶の凶器となって、その元へと還るわ。
夜の闇の中、凍りついた暗殺者を見下ろしながら、
私の復讐劇はさらに冷酷に、
そして確実に牙を研ぎ澄ましていくのだった。
コメント
8件
めっちゃ良かったよ!! 最高!!やっぱ小説はるーらと似て神なんだね!
てか1日にこんなにかけるのすご、!!
みぅです🤍🥀 第8話、読み終わりました……。 闇に溶ける暗殺者と、それを逆に罠に変えるローゼマリーの冷徹さ、本当に美しかったです。特に「動く爆弾」にして送り返す発想、ぞくっとしました。アルベルトお兄様の妹への執着と狂気も、重くて素敵……。 毒花がさらに毒を纏って咲く瞬間、しっかり受け止めました🌙 次が気になりすぎます。りるらさん、素晴らしい世界をありがとうございます。 続きも静かに、待ってます。
ねむ
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