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「立場、逆になっただけやん?」
「……ん?」
ジェルは朝、目が覚めると妙な違和感に包まれていた。
まず、髪がやたらと顔にかかる。
体が軽い。そして──胸元に、柔らかい重みがある。
(……いや、待って、何やこれ)
慌てて飛び起きて、鏡を見る。
そこには──見覚えのない、でもどこか自分に似た女の子がいた。
「はっ!?」
高くなった声にジェル自身が驚く。
髪は伸びて、目元はぱっちり。けど、確かに顔立ちは“自分”。
胸も、腰も、どう見ても女の子。
(えっ、これ、さとみがなってたやつと……同じやん!?)
混乱しながらスマホを取り、真っ先に“あいつ”に電話する。
「……もしもし?」
「さとみ!? 助けて、やばい!! 起きたら女の子になってたぁ!!」
「……は?」
数十分後──
ピンポーン、とインターホンが鳴ると同時に玄関が開く。
「おい、さっきの電話マジで……っ」
そこにいたのは、ピンク髪の少年。
ジェルの姿を一目見た瞬間、固まった。
「……本当に女になってんじゃん……!」
さとみはあからさまに目を泳がせながら顔を逸らした。
「……な、なんやその反応……」
「だって……お前、かわいすぎるだろ……」
「やめて!?」
ジェルは耳まで真っ赤になりながら後ずさる。
いつもはあんなにお調子者なのに、今は見るからに挙動不審。
さとみはその様子がちょっと可笑しくて、少し笑った。
「……なるほどな。俺がなった時、こんな感じだったのか」
「そら焦るに決まってるやろ!なんやこの体!!服とか全部ぶかぶかやし、なんか……歩くと変に揺れるし!!あと視線!!さとみの目!!なんか変!!」
「いや変じゃねぇよ。ちょっと見惚れてただけだよ」
「それが変やっちゅーねん!!!!」
ジェルは顔を両手で隠した。
さとみは、その華奢になった肩と、恥ずかしさで震えてる背中を見て──ふと、あのとき自分がどれだけジェルに助けられたかを思い出す。
(今度は……俺の番だな)
「なあ、ジェル」
「な、なんや……?」
「俺が女だったとき、言ってくれただろ。かわいいって。好きだって。男でも女でも関係ねぇって」
「……言うたなぁ……」
さとみはそっと近づいて、ジェルの手を取る。
「今度は、俺が言う番だ」
「……えっ」
「お前がどんな姿でも、俺はお前が好きだよ」
「…………は?」
「だから、安心して。俺が一生守ってやる」
「…………はああああ!?」
ジェルは顔を真っ赤にして叫んだ。
その日から、2人の関係はまた少しだけ変わった。
「……なあさとみ」
「ん?」
「もうちょいだけ、このままでもええかも」
「え?」
「なんか……お前に甘やかされるの、悪くないかもって」
「……ふっ。じゃあ、覚悟しとけよ? 今までのお返し、めいっぱいするからな」
女体化は戸惑いをくれたけど、
それ以上に、素直な気持ちを交わすチャンスもくれた。
そして2人は、今度こそ“心から”恋を始めていく。