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その女は、煙管が良く似合う女だった。長い睫毛、艶やかな唇。そこから漏れる煙。その女が煙管をふかすのはとても画になった。女と俺との関係は、古い旧友。丁度俺が13になった日に女と出会った。
「よお、白石。」
俺より、6つ上の女。俺の初恋を奪っていった優艶な女。
“白石” 女は、俺をそう呼ぶ。俺は…あんたにだけは、そう読んで欲しくない。好いてる奴に下の名前で呼ばれたいのは皆そうなんじゃないのか?
由竹。この一言だけでいいんだ。誰かじゃなくてあんたじゃなきゃ嫌だ。
「なあ白石。」
あんたの声が聞こえる。嗚呼、またか。顔を上げると、すぐ近くにあんたの顔。
「どうかした?」
いつもの様にはにかんで見せる。
「私、男を知らないんだ。」
突然の言葉にむせかえる。女は心配して、俺の背中を摩る。優しい…。
「な、、な、に急に、、」
息が苦しい。いつもの様な雰囲気で話せない。
「いや、ねぇ、、白石は遊郭に行ってるからもう卒業してるだろ?」
「まあ、、」
「女性用の遊郭は無いもんだか。」
聞きたくない聞きたくない聞きたくない聞きたくない。あんたが他の男とそういう関係に、、?ギリっと下唇を噛む。
「なあ白石。」
「んー?」
「白石は、何か頼み事とか、、無いか?」
頼み事。急にどうしたのほんとに。今日はそういう気分?それとも、見返りを求めるつもりなのかな?
「何かお困りで?」
俺はあんたの為だったらなんでもするよ。
「そうだねぇ、、。別に困ってるって訳じゃないんだけども、、」
女はポリポリと頭を搔く。途端、女の端正な顔立ち。真っ黒な双眼が俺を捉える。思わず、息を飲む。女は口に人差し指を付けて
「別に…ただの気まぐれ」
ため息混じりに女は言う。視線は、俺から外れ、斜め上を向く。
「で?なんかある?」
頼み事。頼み事…悶々と考える。女はそんな俺の姿を見て、ニコニコと笑っている。にしても頼み事かあ、、
「…….名前。」
気づいた時にはもう遅かった。咄嗟に出た言葉はどんどん続きを紡ぐ。
「あんたに名前で呼んで欲しい。他の誰かじゃなくてあんたがいい。」
「なまえ?そんだけ?」
「うん。」
変なやつ。そう言って女は笑う。よかった。笑ってくれて。
「うん、、そっか、名前…」
「由竹、、由竹、、」
そう名前を連呼されると、自分で願ったはいいが少し照れる。
「そっかぁ、…….じゃあ、、由竹」
「なあに?」
「ふかしていい?」
うん。そんなことだと思ったけどさ。
「…」
黙って、女の横顔を見つめる。女は視線だけをこちらに寄越して、狐を描く。
「煙管、、やっぱり似合うね。」