テラーノベル
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――人は、生まれながらにして「器」を持っている。
炎を宿す器。
雷を宿す器。
知恵を宿す器。
大地を宿す器。
その力は十五歳の誕生日に形となり、世界に名を刻む。
人々はそれを――
**「エンブレム」**
と呼んだ。
神々から与えられた、己だけの力。
だから、この世界では誰もが信じていた。
**「能力こそが、人間の価値を決める」**
――そう。
あの日までは。
* * *
「……はぁ」
少年は、街の入口に立っていた。
背中には小さな荷物。
腰には古びた短剣。
そして胸元には、十五歳の誕生日に発現した自分のエンブレム。
そこに刻まれていた文字は――
**《CUSTOM》**
「……また見られてるな」
少年――**ロード**は、周囲の視線を感じながら歩き出した。
街の人々は、ロードを見るたびに小さな声で話している。
「ほら、あの子……」
「例のカスタマーだろ?」
「神のエンブレムじゃないって話だぞ」
「じゃあ、どんな能力なんだ?」
「……能力なんて、ないらしい」
ロードは聞こえないふりをした。
もう慣れている。
十五歳の誕生日。
誰もが自分の力を知る日。
友達は炎を操れるようになった。
別の友達は身体能力が飛躍的に上がった。
さらに別の友達は傷を癒やす力を得た。
そしてロードは――
何も得られなかった。
いや。
正確には、一つだけ得た。
**「カスタマー」**
それだけだった。
「……能力がない、か」
ロードは空を見上げる。
雲一つない青空。
「じゃあ……俺はどうすればいいんだろうな」
少しだけ笑う。
「まあ、歩くしかないか」
ロードは再び前を向いた。
* * *
街の外。
そこには巨大な森が広がっていた。
**迷いの森。**
モンスターが生息する危険区域だ。
普通なら十五歳になったばかりの少年が一人で入る場所ではない。
だが、ロードは森へ向かっていた。
理由は一つ。
冒険者になるためだ。
「……まずはモンスターを一匹倒す」
短剣を握る。
「それくらいは、できるだろ」
森の奥へ進む。
しばらく歩いた、その時だった。
――ガサッ。
「……!」
茂みが揺れる。
ロードは短剣を構えた。
次の瞬間。
緑色の小さな魔物が飛び出してきた。
「ゴブリン……!」
ゴブリンは短い棍棒を振り上げる。
「うおっ!」
ロードは横へ飛んだ。
棍棒が地面を叩く。
「……っ!」
怖い。
足が震える。
逃げたい。
それでもロードは短剣を握り直した。
「俺だって……!」
ゴブリンへ走る。
短剣を振る。
――ガキンッ!
「なっ……!」
ゴブリンの棍棒に弾き飛ばされる。
ロードの身体が地面を転がった。
「痛っ……!」
立ち上がろうとする。
だが、ゴブリンはすでに目の前。
「……!」
棍棒が振り下ろされる。
ロードはとっさに短剣を掲げた。
――バキンッ!
「……!」
短剣が折れた。
地面に転がる。
ロードは呆然とそれを見る。
武器を失った。
能力もない。
勝てるわけがない。
そう思った。
――その瞬間。
「……いや」
ロードは拳を握った。
「まだ、歩ける」
ゆっくり立ち上がる。
ゴブリンが迫る。
「まだ……動ける」
一歩。
また一歩。
「なら――」
ロードは走った。
「まだ終わってない!!」
ゴブリンの懐へ飛び込む。
そして、折れた短剣を逆手に持ち替え――
最後の力で振り抜いた。
――ズバッ!
ゴブリンが倒れる。
「……はぁ……はぁ……」
ロードはその場に膝をついた。
しばらく動けなかった。
やがて。
倒れたゴブリンの身体から、光の粒が浮かび上がる。
「……?」
光は一つの小さな板のような物へ変わった。
ロードはそれを拾い上げる。
「なんだ、これ……?」
手の中に表示が浮かぶ。
――――――――――
**《スキルパッチ》**
**【パワーⅠ】**
武器に付与することで、攻撃力を上昇させる。
――――――――――
「……スキル、パッチ?」
ロードは首を傾げる。
その瞬間。
胸元の《CUSTOM》が淡く光った。
「……!」
スキルパッチがロードの手の中で輝く。
そして、折れた短剣へ吸い込まれていく。
――カチッ。
折れたはずの短剣が、淡い光を纏った。
「……!」
ロードは短剣を握る。
さっきまでとは明らかに違う。
力が宿っている。
「これが……カスタマーの力?」
ロードは短剣を見つめた。
特別な能力はない。
炎も出ない。
雷も落とせない。
身体能力だって普通だ。
だけど――
**自分の武器を強くすることはできる。**
「……面白いじゃん」
ロードは笑った。
「だったら……」
短剣を腰へ戻す。
「俺は俺のやり方で強くなればいい」
そして森の出口へ向かって歩き始める。
その背中を――
少し離れた木の陰から、一人の少年が見ていた。
赤い髪。
腰には大剣。
腕を組みながら、ロードをじっと見つめている。
「……カスタマー、ねぇ」
少年――**レオン**は、鼻で笑った。
「能力なしでモンスターを倒すとか……」
そして口元を吊り上げる。
「面白い奴じゃん」
ロードはまだ、レオンの存在に気づいていない。
この出会いが。
やがて世界を揺るがす二人の――
**最初の一歩になることを、まだ誰も知らなかった。**
――第一話・終
コメント
1件
うわあ、これ、めっちゃいい始まり方ですね……! エンブレムの設定や「カスタマー」という一見ハズレ能力の扱い、一発で世界観に引き込まれました。短剣が折れてからの「まだ、歩ける」のくだり、鳥肌立ちましたよ。そこで諦めずに立ち上がるロードの芯の強さがかっこいい。そしてスキルパッチのシステム感も、ゲーム好きとしてはワクワクします。最後に現れたレオンも気になるし、続きが待ち遠しいです!