テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
#一次創作
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
ザインの前には、しおしおとした少女がふたり座っていた。
アリアとメルヴィナである。
彼女たちは中庭に設けられた木製の椅子に、ぐったりと座っている。
「どうしたんだよ、ふたりとも……」
「また、オリバー様に捕まって……」
「アリアさんが神出鬼没すぎて……」
……どうやら、どちらも苦手なタイプの人間に振り回されているらしい。
「まぁ、メルヴィナの方は何とかなるだろう。
……アリアが気を付ければいいわけだし」
「自分の正義は、自分の中にあるんだよ」
アリアはそう断言した。いかにも含蓄深そうな言葉である。
「それ、いつも以上に意味が無いだろう……。本気で適当に言ってるよな……」
「すごいなぁ……。その通りだよ……」
アリアは感心した。
ついつい口から出た言葉であり、そんなことは今の今まで、思ったことはなかったのだ。
「ザインさんも、アリアさんに振り回されてるじゃないですか……。
アリアさんがオリバー様が苦手なのは別の話として――
……アリアさんを振り回せる人って、いないんですか?」
「ははは。そんな奇特なやつは――……いや、ひとりいるか?」
その言葉に、アリアはぴくりと動いた。
「……もしかして、レイラの話?」
レイラというのは、以前訪れた街で『直感の才能』を授けた魔法使いの少女だ。
その後『異能の天球儀』と不思議な反応を示し、前世の記憶が一部だけ……戻ったらしい。
「そうそう。結局あいさつも碌にしないで、あの街を出ていっただろう?」
「まぁ、そうだけどさ。
ここは、あの街からは結構離れてるからねぇ」
「アリア様ーっ!!」
どこかから聞き覚えのある声がした。
今もこんな空耳が――アリアは懐かしそうに笑うが、しかしその声はいつまでも続き、しかも近付いてくる。
「おい、アリア。あれって、もしかするとさぁ……」
「――え゛」
ザインとアリアの視線の先には、キラキラと走ってくるレイラが見えた。
それを見た瞬間、アリアは立ち上がり、そのまま建物の屋根に逃げていく。
「ばか……! こんな人目のつくところで……!」
「幸いにして、誰も見てはいないようでしたけど――」
「あ、ザインさん! お久し振りです!
……あれ? アリア様はどちらに?」
「えぇっと……、少し用事があるんだってさ!
いやぁ、残念! 見事なすれ違いだったなぁ!」
ザインはどちらかといえば、アリアの肩を持っていた。
これからもずっと一緒なのだから、レイラが不憫に思えても、その立ち位置が一番良いのだ。
「そうですか……。ようやくお会いできると思ったのですが……」
「残念だったな。またの機会に、だな!」
ザインがレイラを慰めていると、遠くの方から頼りない声が聞こえてきた。
「レイラさ~ん、急に走らないでください~……っ!!」
「あっ、ごめんなさい!」
レイラはその男性に、申し訳なさそうに謝る。
話を聞いてみると、レイラが今組んでいるパーティの戦士らしい。
アリアが戻って来なさそうだったので、一同はそのまま分かれることになった。
「それでは私は用事があるので、また……」
「おう、またな!」
レイラは名残惜しそうに、ザインの前から去っていった。
彼女も大聖堂に用事があるそうなのだが、到着したときに直感が働き、あちこちを探し回っていたらしい。
「あの方が、アリアさんを振り回せる人……ですか。
確かにあの勢い、私も苦手かもしれませんね……」
メルヴィナはどこか同情するように、ぼそりと零した。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
翌日、メルヴィナは主教の執務室を訪れていた。
主教からの命令で、彼女は毎日、アリアの行動を報告しなければいけないのだ。
今は昨日の報告をしているところだが、やはり途中でアリアが消えてしまったため――
……どうしても、期待に応えられない形の報告になってしまう。
主教の雰囲気が、今日も恐ろしい。
『異能の天球儀』を壊したのはわざとではないと確定したのに、何でそこまで、彼女に執着するのか……。
……主教の直属でもなく、基本的には外回りの人間。
職位だって、メルヴィナの『N』に比べて、それよりも下の『S』……。
最も多い職位の『R』よりも、さらに下……。
希少ではあるが、最も下の職位――
……それなのに、主教から執着されるのは、何故?
「アリアさんって、何者なんだろう……?」
主教の執務室を出て、廊下の窓から空を見上げる。
ずっと一緒にいるザインですら、彼女を正しく示すことはできない。
「もしかして――
異端諮問局の、特務裁定官……だから?」
特務裁定官は、諮問を飛ばして執行を――異端と認めた者に、裁きを与えることができる。
教団トップの主教であっても、ナンバー2の大司教であっても、そこから逃げることはできない。
話によれば、特務裁定官はオルビス神の神託によって作られたもの、と聞いている。
つまり本来であれば、主教も大司教も、こんな存在はあって欲しくないのかもしれない。
そして今……アリアが大聖堂に留まっているのは、オリバーの指示らしいから――
「大聖堂の中で……、不正が?」
歴史を振り返ってみれば、教団の中枢部が汚職をしていた、という事例もある。
しかしメルヴィナは、主教にも大司教にも、今までとても目を掛けてもらっていた。
「……はぁ。また、アリアさんに振り回されてる……」
窓から廊下に視線を移すと、どこかで見覚えのある少女がうろうろとしていた。
忘れるはずもない。自分を振り回すアリアを、唯一振り回すことのできる人物――
「どうかされましたか?
アリアさんのお知り合いの、レイラさん……ですよね?」
「あ、昨日の!」
「はい、私はメルヴィナと申します。レイラさんは、こちらで何を?」
「はい。アリア様に用事があって……。それで、ここまで来たのですが……」
ここは一般の人間が入れるような場所ではない――
……警備の騎士もいるし、隙を見て入り込んできたのだろうか……。
神出鬼没の人間を追い掛けられるのは、やはり神出鬼没な人間だけ?
メルヴィナはそんなことを思ってしまった。
「……アリアさんをお探しなんですね。
そういえば私、アリアさんと昼食をご一緒する予定だったのですが……場所をお教えしましょうか?」
「え? いいんですか!?」
「はい、もちろんです。ただ、私は少し用事ができまして……。
申し訳ないのですが、代わりに行って頂けますか?」
「わかりました、アリア様にも伝えておきますね!」
メルヴィナは、してやったり……という気持ちで、レイラに約束の場所を教えた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
メルヴィナは広い食堂で、他の神職者に紛れるように食事をとっていた。
少し先にはアリアとザインがいて、そこに……レイラが加わった。
レイラはアリアのまわりをうろちょろとして、アリアが逃げられないようにしていた。
「不思議な動き……。袖のひとつでも、掴んでやればいいのに」
そう思いながら、メルヴィナはスープをひと啜りする。
わんわんと嘆くレイラを前に、アリアは観念して椅子に座った。
レイラは身を乗り出しながら、嬉しそうに、興奮気味に話している。
……あんなにも慕われて。
相手がいくら迷惑な人だったとしても、その気持ちはやはり大きい……。
ふと、メルヴィナは自分に当てはめて考えてみた。
自分には、あそこまで自分を追ってくる存在はいない。
自分は今まで上手くやってきたと思うが、でも、どこか羨ましい……。
しばらくすると、レイラはパーティの仲間である、戦士の男性を連れてきた。
距離が離れていて話は聞こえないが、何かを訴え掛けているようだ。
しばらくすると、アリアはその男性と食堂を出て行ってしまった。
レイラも着いて行こうとしていたが、ザインに首根っこを捕まえられていた。
ふむ……と思い、メルヴィナは立ち上がる。
「ザインさん、アリアさんはどうしたんですか?」
「おう、メルヴィナ。
用事はもういいのか? えっと、アリアは――」
一瞬目を逸らして、再び続ける。
「レイラの知り合いが困りごとがあるってんで、相談に行ったよ」
「へぇ……? 神職者らしいことをしてますね」
「いや、ちゃんと神職者だろ!?」
ザインの指摘に、メルヴィナは何ともいえない思いを抱いてしまった。
そして思わず、アリアたちの消えた方に走り出す。
アリアが自分のいないところで何をするのか、しっかり確認しなければ――
「あ、ちょっと!?」
ザインが立ち上がる気配を感じたが、メルヴィナはそのまま走り続けた。
しばらく走ってから後ろを見ると、ザインはレイラを押さえ付けていた。
恐らくレイラも、一緒に行こうとしたのだろうが――
メルヴィナは心の中で、レイラにお礼を言った。
食堂を出てから、青い空の下でアリアたちを探す。
人々がやはり多く行き交い、混み合っている。これでは、すぐに見つけることはできないだろう。
しかし、ふと、建物の影から大きな声が聞こえた。
「うおおぉーっ! これで俺、大丈夫そうです!!」
「でも、無茶はしないでね? あなたは仲間を守る側なんだから。
力に溺れて、犠牲を増やさないように」
「はい、もちろんです! レイラにも感謝しないと!!」
「あはは……。
それじゃ、あたしの仲間が困ってるだろうから、早く行ってあげて……」
そんな会話が聞こえてきたあと、飛び出てきた男性と鉢合わせになった。
「あ、すいません!」
「いえ、お構いなく……」
軽く言葉を交わすと、その男性は食堂の方に猛ダッシュしていった。
はて、アリアはこんな場所で、祝福でもしていたのだろうか……。
メルヴィナはそんなことを考えたが、そのあと、溜息をつきながら出てくるアリアと鉢合わせになった。
「――うわぁ、メルちゃん!? こんなところで、どうしたの?」
「え? えぇっと、その……。
用事が思ったより早く済んだので、まだご一緒できるかな、と思いまして……」
メルヴィナは取り繕うように、そう言った。
アリアはその言葉を聞いて、嬉しそうにメルヴィナの両手を取る。
「それじゃ、一緒に食べようねぇ♪
ハンバーグ定食とか、美味しそうだったよ? あたしも食べようかなー」
「え? まだ食べるんですか?」
アリアは一瞬不思議そうな顔をしたが、屈託のない笑顔で続ける。
「一緒に食べた方が、美味しいじゃない?」
メルヴィナの中で、疑念や嫉妬、困惑や共感……様々な感情が入り乱れた。
本当に、よく分からない人……。
「それではご一緒しましょう。
ところで、昨日会ったレイラさんとは……どういう関係なんですか?」
「外回りで行った街で会ったんだけど……。前世で、あたしと会ったみたいでねぇ……」
「はぁ……。アリアさん以外にも、よく分からない人がいるものですね」
「そうなんだよねぇ――
……あれ? あたしも?」
アリアの言葉に、メルヴィナは今日一番の笑顔で返すのだった。