「嶽丸美亜ちゃん!おじさんも混ぜてくれよ」
自分でおじさんとか言ってるけど…全然おじさんじゃないから嫌味に聞こえる。
でも訂正してほしくて言ってるわけではないと、長年の付き合いで知ってるから厄介。
私は瞬間的に手を離し、嶽丸と距離を置く。
すると、ベンチ型の椅子だったのをいいことに、離れた私たちの間に座ってしまったケンゾー。
「あぁ…?!」
不満そうに唸る嶽丸をなだめるように、私はケンゾーに声をかけた。
「オーナー!嶽丸美亜って、1人分の名前みたいにして呼ぶのやめてもらっていいですか?」
「…なに?俺に仲良しだって思われたくないの?…ん?」
「……」
ケンゾーが酔ってる。しかもめんどくさい酔い方をしてる気がする…
「嶽丸くん!お願いがあるんだ。君、うちの専属モデルになってくれない?」
「「…は?」」
声を発したのは2人同時。
「モデルになれば今よりもっとモテるだろう?…美亜よりずっと若くて可愛い子にもさ!」
ケンゾーの目が、酔った人特有の座った感じになっているのは嶽丸にもわかるだろうに…
「若くて可愛い子じゃなくて、美亜にモテたいんですよね…俺」
「俺も!美亜にカッコいいおじさんって思ってもらいたい…」
そう言うとケンゾー…私に体重をかけるようにしなだれかかってきた。
「ちょ…オーナー、重い…です」
その肩をグイグイ押してみるものの、ビクともしない。
なんなんだ?なんという嫌がらせ?小学生みたいなんですけどっ!
イラつき気味にそう思っていると、嶽丸がケンゾーの肩を抱いて、ぐいっと引っ張ってくれた。
「オーナーさん、酔ってるんですか?美亜にアプローチしてるつもりみたいですけど…逆効果ですよ?」
嶽丸の言葉に、思わず「…えっ?!」と声を上げてしまう。
なんでケンゾーが私にアプローチ?
体重をかけて寄りかかってくることが?
「あはは…バレた?いい年して、美亜にはうまくアプローチできなくてさ」
…認めてどうする?!…と言いたくなるのをなんとか押し込める。
「嶽丸くんに教わりたいなぁ…好きな女の子の落とし方」
百戦錬磨でしょ?…と言われた嶽丸。妙に真面目な顔になって言う。
「どれだけたくさんの女の子を落としてきたからって、本命の子の前ではまったく応用なんてできないですよ」
「嶽丸くんほどのイケメンでもそうなのか。…じゃあ俺は…ストレートの直球でいくしかないな」
なんとなく、私に関係ある話のような、そうでもないような。
2人の話に入っていいものか迷う。
「ストレート直球なんて、俺が確実に場外ホームランで打ち返しますけどね」
「…ふふ…言うねぇ!」
席を立つわけにもいかないし、なんだか居心地悪い…と思っていたら、慎吾先輩がこちらに歩いてくるのが見えた。
「…オーナー、こんなところにいたんですか?」
必死に手を振る私に気づき、慎吾先輩も私たちと同じテーブルについてくれた。
若干空気が緩んだ気がして…ホッとする。
「嶽丸くんにどうしたらモテるか聞いてたんだよ」
すると慎吾先輩、私に突然爆弾を投下してきた。
「そうだ…俺も聞きたかった!美亜は嶽丸くんと付き合ってるのか?」
「…え?」
酔ってすわった目線を向けてくるケンゾー。
どう言ったらいいだろう。
付き合ってないなんて言ったら、ケンゾーの変なアプローチが始まるかもしれないし…それは遠慮したい。
付き合ってるなんて言ったら、自分からセフレ認定したのに、嶽丸になんだコイツって思われる。
「ええっと、その…」なんてモゾモゾしていれば、まるで簡単なことのように、嶽丸が返事をした。
「今は、俺が美亜を全力で口説いてるところです」
「へぇ…そうなんですか?…さっきステージでは、完全に恋人っぽかったけどね?」
慎吾先輩…なんだか楽しそう。
するとケンゾーが、少し姿勢を正しながら言う。
「じゃあ俺は…それを全力で阻止しようかなぁ…」
「おいおい?!なんだよ美亜…お前モテ期来てるじゃん?」
ケンゾーの宣戦布告とも取れる言葉を聞いて、慎吾先輩は更に楽しそうだ。
「いや…その、どういうことでしょう…?」
困る…。
嶽丸はともかく、ケンゾーからのアプローチって、それは…私を女性として見てるってこと?
わぁ〜…仕事がやりづらくなる、としか思わない。
そこでハッと思いついた。
「あの…オーナーに憧れてるスタッフ、たくさんいるの知ってます?」
それこそ私よりずっと若くてピチピチで、可愛い女性スタイリストたち。
銀座店だけでなく、他の店舗にだって、ケンゾーのファンは多い。
「…そうなのか?」
「はい!名前を出すのは避けますが、実際ケンゾーはカッコいいし仕事ができるしお金持ちだって…皆言ってますよ?!」
「ケンゾーが金持ち…」
あ…!本人にケンゾー呼びしてしまった…と、気づいたときにはもう遅い。
「す、すいません…。ケンゾーなんて呼び捨て…」
「いいよ」
「…は?」
「美亜にだけは許す。これからはケンゾーって呼んで」
えー………。
今までの私の努力っていったい…。
そこで大きなため息が聞こえて、私はふと顔を上げた。
「そろそろ行くか」
仏頂面の嶽丸だった。
…とりあえずここは、帰ったほうがいいかも。
私は立ち上がる嶽丸に続いて、何か言いたそうなケンゾーを無視し、笑い出しそうな慎吾先輩に目で挨拶して、店を出た。
それにしても…
ケンゾーが私に特別な思いを抱いているというのは、間違いなさそうだ…
コメント
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↓きょんお嬢に座布団(っ'-')╮ =͟͟͞͞50枚✨ブォン 慎吾ちゃんはどうなんだろうね〜🤔自分は違うと見せといて…なーんてあるかも!!! 嶽丸だって突然現れそうだよね💦 なんせ2人ともモテるから!
残念ながらケンゾーの入り込む余地はありません。 またのご来店お待ちしてません。