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──数日後。旅の途中。
「うおおおぉおおおッ!!
ホーリィィィィィィィ……ビィィィィィィィム♡!!」
私の絶叫とともに、左目から極太の閃光が迸る。
ビーーーーーーーーーー♡
森の中に潜んでいたモンスターは、
光の奔流に呑まれた瞬間──塵も残さず”抹消”された。
†
──音もなく、風が逆流した。
地面には焦げ跡すらなく──
ただ、十字架(クロス)の形に空間が抉り取られていた。
空を飛んでいた鳥が、一目散に逃げていく。
私は呆然と立ち尽くした。
倒した。うん。倒した。それは良い。
それは、良いんだけど。
……跡形もない。完全に、何もない。
ビームが強力すぎる。手が震えていた。
これが私の力? これが”私”?
音も匂いも、すべて消えた。
静かすぎて、逆に心臓の音だけがうるさい。
「な、なんという……聖なる消滅……!
この地は後世、奇跡の地として語り継がれるでしょう……
ツバキ様が残した、清浄なる浄化の証として……!」
ローザが膝をつき、祈るように呟いた。
だが私には、その賛美の声が──
なぜか、恐怖に聞こえた。
「いや……なんなの……この力……!?」
私の声が裏返った。
自分でも驚くほど、怯えていた。
「わー!すごいぃー!!
ほんとに跡形もなくなったねー!」
カエデがピョンと近づき、
†の残光を手でパタパタしながら無邪気に言う。
「ねぇツバキ、今のもう一回できる?
うどん温めたいんだけど」
カエデはどんぶりを片手に、そう言い放った。
「私のビームを『電子レンジ』扱いすなッ!!」
私は頭を抱えた。
「くっ……我が内なる魔力が暴走を──否、これも必然か。
世界が我に浄化を望んだのだ……!」
(※中二病モードで復帰)
実際のところ、力のコントロールがまだできていない。
ちょっと威嚇のつもりで放ったビームが、
毎回フルパワーで発射されてしまうのだ。
「ツバキ、もう少し手加減した方が……」
「この身に宿りし浄化の光、制御など叶うものかよ!」
(……手加減って言われても、勝手に出るんだもん!)
*
休憩に入り、草の上に腰を下ろした私は、
何気にステータスウィンドウを開いた。
\\ ズギュウウウン!!! //
「音ぉぉぉッ!!??」
「演出がド派手すぎてログ読む前に圧がすごいよッ!!」
カエデも悲鳴を上げた。
当然の反応だ。何この効果音。毎回驚く。
【ステータスウィンドウ(※抜粋)】
名前:ツバキ
レベル:13
称号:聖女(仮) → ゴッド・ツバキ(信者により命名)
信者数:10,114人
世界征服率:5 % (カメリア教立ち上げボーナス、ログインボーナス込み)
演説力 : 3 (パンの話ができる)
カリスマ : 990 (信者「よくわかんないけど好きです!!!」)
▼スキル一覧
・ホーリービーム♡(両目・口・耳・ツムジ /鼻は保留中/お尻は女子だから制限中(*優しさ))
・中二病語録 (パッシブ)
・空中浮遊 (制御不能)
・心の叫び(大)【アクティブ】
∟発動時、感情の高まりにより魔力増幅(※強すぎると暴走)
▼征服フェーズ進行状況
次の征服フェーズ到達まで:あと 9,886 人
次フェーズ報酬:演説力+5 / カリスマ+10
=====
「……ビームが鼻から出る可能性、まだ消えてないし……!
なんならまだ、変なとこから出すの検討されてるし!?」
「いいなぁ……」
カエデが羨ましそうに呟いた。
何が「いいなぁ」なの、真剣に聞かせて?
「……って! 信者数が一万人超えてるし!?
世界征服率5%!?」
心臓がバクバクと音を立てる。
いつの間に? 私、何をしたっけ?
パンの話をして、ちょっとビームを撃っただけなのに。
……数字の重みが、じわじわと現実味を帯びてくる。
(……待って。5%ってことは……)
背筋が凍った。
(あと二十回これをやれば……世界が終わるってこと……?)
指先が冷たくなる。
ただの数字遊びだと思っていたものが、
急に「終わりのカウントダウン」に見えてきた。
「おめでとうございます、ツバキ様ぁ!!」
おめでたいことなの、これ?
ローザの嬉しそうな顔が、逆に私を困惑させる。
「いや、世界征服してるつもりなかったんだけど!?」
声が上ずった。
本当に、本当に意図してなかったのに。
「世界が勝手に征服されていってます……」
嬉しそうにローザが羽ペンを走らせる。
どうやら私の存在自体が、
この世界の宗教観を書き換えているらしい。
善意でやっていることが、
結果的に世界征服になってしまっている。
「ツバキ、このまま世界征服だね!」
カエデがうんうんと頷いた。
「違うー!!」
──私が叫んだ、その刹那。
「えへへ、ツバキ!
実は私もね、新しい精霊と契約しちゃったんだ!」
「は?」「おお?」
ローザと私の声が重なった。
「ふふーん、これです! ステータスオープン!」
\\……ほにょ〜ん……ぽわわ〜ん……♪//
「……絶対バカにされてるよ、カエデ?」
「……」
ローザも押し黙った。
「そうかなぁ?」
当のカエデは首をかしげるだけだ。
カエデのステータスウィンドウが、
やたら優しく牧歌的な音で開く。
【ステータスウィンドウ(※抜粋)】
名前:カエデ
レベル:1(※固定)
称号:草の者/勇者(?)
幸運:-530000(厄災級)
スキル:
・ウィルソンを投げつける(Lv.1210)
・スピリットコール:草
・スピリットコール:弱風(NEW!!)
【スピリットコール:弱風】
精霊名:そよかぜのフーラ
発動効果:相手の前髪が”ふわっ”と揺れる(くしゃみ未満)
副作用:精霊がやたらテンション高くてうるさい
セリフ例「風の精霊、フーラ参上ッ!! 必殺ッ!風圧一センチッ!!」
=====
「「……そよかぜ」」
私とローザが声を揃えた。
「……お前、本当に勇者なの……か?」
「うん! 精霊と契約できるもん!」
ドヤ顔だった。
まごうことなき、自信に満ちたドヤ顔だった。
「カエデ様……さすがでございます……」
ローザが静かに、そして恭しく頭を下げた。
さすがでございます、じゃないよ。
風圧一センチだよ。
私は世界を征服しかかってるのに、あいつは一センチだよ。
──深呼吸をした。
草の匂いがした。
のどかだった。
……まぁ。
(……カエデだしね)
それだけで、何故か全部納得できてしまう自分が、
少しだけ悔しかった。
──その時だ。
「あぁ……! わかりました……! わかってしまいました!」
ローザが突然、雷に打たれたように震え出した。
目には大粒の涙が浮かんでいる。
「ど、どうしたのローザ?」
「ツバキ様の『世界征服』……
先ほどの『デンシ・レンジ扱いするな』という拒絶……!」
ローザが懐から聖典を取り出し、猛烈な勢いでペンを走らせる。
ガリガリガリガリガリガリッ!!
「ちょ、ローザ!? 怖い音! 筆圧が怖い!」
「デンシ・レンジ……その響き……!
おそらく古代語で『灼熱の邪神』を意味する言葉……!
聖女様は、うどんを温めるという安易な快楽(邪神の誘惑)を拒絶されたのですね!!」
「違う! ただの家電! チンする箱!!」
「『チン』……!?
なんと恐ろしい儀式名……!」
ローザが戦慄して口元を押さえた。
「命の灯火が消える音を……あえて軽薄に擬音化するとは……
邪神レンジ……恐るべし……!」
「違うってばぁぁぁ!!」
私の訂正は、ローザの感動にかき消された。
「──追記します!
『第四千九十六節:世界は征服を望む。しかし聖女は、うどんを温めることを望まなかった』」
「もう意味わかんないな!?
あと、そのネタみたいな教えが四千を超えてるの!?」
私のツッコミは、オサカの空へ虚しく吸い込まれていった。
(つづく)
──【本日のカメリア聖典追加節】──
『第四千九十六節:世界は征服を望む。しかし聖女は、うどんを温めることを望まなかった』
解説:
世界征服とは、気づいた時には終わっている。
電子レンジに否定されても、歴史は動く。
聖女の意思と、世界の意思は、だいたいいつもすれ違う。
冷たいうどんも美味しい。