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「な、七不思議なんてあるんですか、この学校に。ヤダ、コワーイ」
アタシがおどけてみせたのは、恐怖を振り払うためだ。
今更ナンだが、後半部分は無視された。
「学校には七不思議があるものなんだ。な、有夏!」
有夏チャンはこの期に及んで平然としている。
姉ちゃんより怖いモノはないというのがヤツの自論だから、今更オバケなんて怖くないのかな。
無言で校舎を見上げる様は……うん、カッコイイ。
その顔面はカッコイイ……のだが?
「七不思議か……例えば学校には巨人が潜んでるけど、巨人は実は巨人じゃなくて。うん、そういう意味だな」
「うーん、有夏。何でも巨人で例えるのはやめようか……」
無念だ。有夏チャンはアホだった。
キメ顔が残念でならない。
「あっ、俺、明日早番なんだった。睡眠時間を確保したいから、とっとと潜入しちゃおう。ホラ、カメラ、ちゃんと付いてきてよ! この役立たず!」
「ハァ、ちゃんと撮ってますよ……」
ヘンタイメガネよ、お前は仕事を辞めてYouTuberになったんじゃなかったのかよ。
明日の出勤のことを考えてどうするんだ。
見上げた社畜だな。
何もかも本末転倒じゃねぇか、この企画。
まぁ、アレだよな。
七不思議っていったら、アタシが通ってた頃も小・中・高校にもれなくあったよ。
人のいない音楽室からピアノの音が聞こえてくるとか、夜中に階段踊り場の鏡を見たら死者の世界に引きずり込まれるとか。
みんなで面白がって放課後、音楽室に見に行ったもんだよ。
吹奏楽部の顧問に見つかってガチギレされたのも楽しい思い出だな。
『えー、まずはこの学校の七不思議をご紹介しましょう』
おっ、メガネの奴、アタシのスマホカメラに向かってレポーターよろしく語りだしたぞ。
唐突過ぎて、ヤツの後ろで有夏チャンがボケッと口を開けてアホ面を晒しているけれど……ここはまぁ見ないフリをしてやろう。
ヘンタイメガネが、したり顔で語った七つの怪異は以下のとおりだ。
ひとつ、調理室でババァが肉片を切断している。
見た人は次の犠牲者に……。
ふたつ、校庭で首のない生徒たちがサッカーをしている。
ボールは当然、自分たちの首。
みっつ、プールの水が血。
覗き込むと大勢の女生徒の顔が浮かんできて、一斉に笑う。
よっつ、視聴覚室のスクリーンから、得体の知れない女が這い出てきてくる。
校内を徘徊している。
いつつ、三階端の教室にあるロッカーから呻き声が聞こえる。
中には切り刻まれた人体がぎっしり詰まっている。
むっつ、誰もいない音楽室から笑い声がする。
見に行くと、見えない力でピアノの前に座らされる。
二分の一の確率でピアノの蓋で手首を切断される。
ななつ、校舎の玄関前に立って上を見ると、女生徒が落ちてくる。
──待て待て、どれもエグイなぁ!
アタシは絶叫した。
「いや、どれもエッグイわ! 七不思議っていったら、ひとつはホンワカしたやつとか、ロマンチックなお話が混ざってるのがセオリーじゃないですか! 河童が泳いでたとか、そういうやつ……。七つとも全力でビビらせにきてるじゃないですか! いやいや、どれもエグイって!!」
『ちょっ、カメラマンさんうるさいですよ! レポートの邪魔ですよ』
ご丁寧に「こ・の・や・く・た・た・ず」と口パクで伝えてから、ヘンタイメガネは顎を突き出すようにアタシを見下ろした。
これは完全に小馬鹿にしてる顔だ。
「ジャパニーズホラー全盛のこの時代に、河童で怖がる視聴者がいるとでも?」
ああ……コイツ、すっかりYouTuberの顔してやがる。
どうやらお忘れのようですね?
カメラを持ってるのがノゾキ魔のアタシだってことを──なんて心の中で言って、アタシは無言でカメラを構えた。
コイツ、とっとと有夏チャンとイチャつかねぇかな。
『ヘンタイメガネのエロエロチャンネル』の第1回目タイトルは「廃校で制服デート♡まさかのエッチ!?」で決まりだぜ! ヘッヘヘ。
ヨコシマなアタシはこの時、まだ知らなかった。
我らが有夏チャンが、予想以上にアホだということに。
「バカバカしい。オバケの何が怖いんだ。巨人化した姉ちゃんのほうがよっぽど怖いってのに」
……そりゃアナタ? お姉さまが巨人化されたら怖いに違いないですけども?
「有夏、ひとりで見て来てやるよ。オバケがいたら縄跳びのナワでふんじばってやる!」
「ちょっ、有夏!?」
「ふんじばってやーるぅぅーーー」
叫びながら有夏チャン、意外な身体能力を発揮して駆けて行った。
この人、アタシたちとは見えている世界が違うようだ。
ジャパニーズホラーの世界観で、どうやらこの人だけアメリカンナイズなホラー映画のフラグの立て方をしてくれる。
そう、霊や都市伝説をバカにし、舐めた態度をとる奴は真っ先に殺られるのが、アメリカンホラーの定石なのだ。