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#独占欲
朝日が、これほどまでに凶器に感じたことはない。 ほとんど眠れぬまま迎えた、1月22日、土曜日の早朝。区役所のロビーで、僕は自分の膝がガクガクと震えるのを感じていた。
(……まずい。視界にノイズが走る。現在のバッテリー残量は1%。バックグラウンドプロセスはすべて強制終了、OSを維持するのが精一杯の『超省エネモード』だ……)
一方で、隣に座る白石さんはというと。昨夜、僕から五回分の「愛の延滞料金」を強制徴収した彼女は、あろうことか昨日よりも肌にツヤが増し、内側から発光しているかのような神々しさを放っている。
「陽一さん、大丈夫ですか?」
彼女が僕の腕をギュッと引き寄せ、婚姻届を窓口に差し出す。 受理されたその瞬間、僕の脳裏には『退路断絶』の四文字が特大フォントで浮かび上がった。
(受理された……。これで正式に、事務処理が完了してしまった。もう、この捕食者から逃げ出す選択肢はどこにも存在しないんだ……!)
絶望と幸福が混ざり合った、なんとも形容しがたい表情を浮かべる僕を見て、白石さんは「ふふっ」と満足そうに微笑んだ。
「これで陽一さんは、ずっと一生、私のものです♡」
「あの、すみません。記念に一枚、撮っていただけますか?」
白石さんが、役所の入り口の守衛さんにスマホを差し出した。
「おめでとうございます……。あ、あの、旦那さん? 顔色が、その……大丈夫ですか?」
守衛さんが引きつった笑顔で、本気で心配そうに僕を覗き込んでくる。そりゃそうだ。レンズの向こうには、完璧な笑顔の「天使」と、今にも天国へ召されそうな生気のない「幽霊」が並んでいるのだから。
「だ、大丈夫です……ちょっと、『メンテナンス』が長引いてしまって……」
パシャリ。 出来上がった写真は、もはや結婚報告のそれではない。 幸福のオーラに包まれた「捕食者」と、その傍らで力尽きかけている「獲物」。 世紀のミスマッチを記録したその一枚は、僕たちの未来を暗示していた。