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第21話 諦めるな
あれから数時間後、光希が目を覚ましたのは体が拘束されたままの冷たいベッドの上だった。
手足は金属の帯で縛られ、身動き一つ取れない。
目の前にはまた、あのアルベリヒが立っていた。
「起きたか、光希くん。さすがは”人間以上の存在”..常人ならとっくに死んでいる」
その言葉の後ろで、5人の研究員たちが無機質に装置を操作していた。
彼らの表情は恐ろしく冷たく、もはや人の感情が感じられなかった。
アルベリヒは、赤黒く濁った液体の入った小瓶を手に取った。
「これは君の血から抽出したエキスだ。これをさらにお前の血を混ぜると…。」
そう言って、アルベリヒは光希の腕を切り、その傷口から血を垂らした。
小瓶の中で赤黒い液体と混ざると、異様な発光を起こした。
「…そして素晴らしいものができる。」
そしてーーアルベリヒは、それを飲み干した。
「……!?」
「うん、うん……いい、実にいい!!もっと..もっと摂取したい…..!!」
彼の瞳は明らかに狂気を帯び、光希に再び手を伸ばす。
「君の血、君の力、それらをこの体に取り込む….それこそが我が”神への進化”だ!!」
次に行われたのは、脊髄への直接電気刺激実験。
神経をあえて混乱させ、力が無意識に発動されるように誘導するという地獄のような試みだった。
「ぐ、あ、あああああッ…..!!!」
叫び声が、部屋中に響く。
目は涙と苦痛でかすみ、体は震え、全身の筋肉が悲鳴を上げる。
意識が保てなくなるギリギリの中、光希はただ一つの思いだけを繰り返していた。
ーーみんな…生きててくれ…..頼むから……。
そして、その意識は再び、暗闇に沈んでいった。
同時刻。別棟の地下、拷問室。待機場所、仕事の持ち場。
佳代は、壁に縛られた状態で、何度目かの拷問を受けていた。
今回はまた佳代と同じ部隊である光希と日向のことを詳しく聴取したいとのことだった。
佳代の目には布が巻かれ、耳元では「失敗したら光希が死ぬぞ」と脅されていた。
だが、佳代は黙り込んでいた。そしてこう言った。
「…..あんたたち….それでも…..人間なの?」
答えはなかった。ただ冷たい水がぶっかけられ、電撃が走る。
西円寺は別の部屋で、傷がまだ癒えぬ腹部に無理な動作を強いられ、咳き込んでいた。
時折、震えながらも、「林さん……無事でいて……」と呟いていた。
相奈も、お鶴の方も、立てなくなるまで働かされ、椅子に座ることすら許されなかった。
「死ねば楽になる」と言われても、誰一人として諦める者はいなかった。
同時刻。地下3階、監禁棟。
蓮人は無言だった。狭い独房の隅で膝を抱えながら、ただ「佳代」と何度も呟いていた。
日向は、すでに自分の指の関節を外し、拘束具を外す方法を試していた。
そして、片方の手は拘束具を外すことに成功していた。
「みんなは…きっと生きてる。絶対に助けに行く。だから……俺もまだ終わっちゃいけねえ」
林は静かに目を閉じ、仲間の声を思い出していた。
小河と晴翔は、2人の壁の間に小さな穴を見つけ、何かを交わすようにメッセージを掘っていた。
「11人、きっと生きている。希望、捨てるな。」
そんなある夜、拷問帰りの佳代が通された通路の途中にある牢屋のような部屋からから、微かに声が聞こえた。
「…..か……よ….?」
かすれたその声は、確かに光希のものだった。
「光希さん…..!?光希さんなの…..つ!?」
「…..無事…..でいてくれ…みんな…..」
声は弱かったが、それだけで佳代の目から涙があふれた。
たった数秒の接触。
それでも一一彼が生きているという事実だけで、佳代の心には灯火がともった。
佳代はすぐさま女隊員の4人に伝えた。
次の日、男隊員のいる監禁棟前を労働の関係で通ったお鶴の方が部屋のドアの隙間にこっそりと文をはさんだ。
警備が甘くなっていたためかバレずに済み、さらに拘束具が解かれていた。
“光希、生きてる 私ら4人無事 絶対に諦めるな”
最初にこれを見たのは晴翔だった。
晴翔はまず、隣の小河に伝えた。
次の日もさらに次の日も(3日連続)、偶然にお鶴の方は監禁棟を通った。
この情報は全員に知れ渡った。
「絶対に…..ここから抜け出す。
あの化け物を倒して…..みんなで、帰るんだーー!」
ー監禁された全員が誓った。