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誰も知らない、高嶺の花の裏側2
第95話 〚怖いのに、戻らない〛(澪視点)
怖い。
それが、正直な気持ちだった。
教室の椅子に座りながら、澪は何度も自分の心臓の音を確かめていた。
ドクン、ドクン、と、いつもより少しだけ強く響く。
(……間違ってないよね)
そう思おうとするたび、
頭の奥で「もしも」が囁く。
——もし、あの時動いていたら。
——もし、未来に従っていたら。
——もし、いつもの自分だったら。
でも。
澪は、あの時、動かなかった。
予知はあった。
はっきりと、胸の奥に浮かんだ未来。
小さな衝突。
生まれる誤解。
視線が集まり、空気が変わる。
いつもなら、そこに縛られていた。
「起きるなら、受け入れなきゃ」
「避けられないなら、先に傷つこう」
それが、自分を守る方法だと思っていたから。
でも今回は——
心臓が、違う音を出した。
ドクン、と強く。
まるで拒むみたいに。
(……いやだ)
初めてだった。
未来に対して、そんな感情を持ったのは。
怖かった。
予知を無視するのは、崖から一歩踏み出すみたいで。
でも、それ以上に——
「また同じ場所に戻る」ことが、怖かった。
澪は、ぎゅっと膝の上で手を握る。
(戻りたくない)
一人で耐えて、
一人で誤解されて、
一人で未来に縛られる場所に。
隣の席から、紙が擦れる音がする。
視線を向けなくても、分かる。
海翔だ。
何も言わない。
でも、そこにいる。
それだけで、少しだけ息がしやすくなる。
(……信じるって、こういうことなのかな)
守られるのとは違う。
引っ張られるのとも違う。
「大丈夫」って言われる前に、
自分で立っていることを、そっと肯定されている感じ。
それが、嬉しくて、
同時に、怖かった。
だって——
信じられるって、逃げられないってことだから。
チャイムが鳴る。
澪は、少しだけ肩を震わせた。
(……それでも)
怖いのに。
心臓が早くなるのに。
澪は、戻らない。
予知に縋らない。
誰かの都合のいい未来に、従わない。
自分で選んだ「何もしない」が、
こんなにも重くて、
こんなにも確かなものだなんて、知らなかった。
視線を上げると、
前の席のえまがちらっと振り返って、
何も言わずに笑った。
りあも、しおりも、みさとも、
いつも通りにそこにいる。
(……私、ちゃんとここにいる)
逃げてない。
消えてない。
澪は、胸に手を当てた。
ドクン。
怖い。
でも、確かに、自分の音だ。
——戻らない。
その選択が、
これから何を連れてくるのか分からない。
それでも。
澪は、前を向いた。
未来じゃなく、
今を、選ぶために。