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誰も知らない、高嶺の花の裏側3
第101話 〚増えていた人数〛
― 澪視点 ―
その日は、
何も変わらない一日だった。
授業。
休み時間。
放課後。
全部、
いつも通り。
だから私は、
気づかなかった。
――守る人が、
増えていたことに。
次の日の朝。
昇降口で靴を履き替える時、
いつもより人が多い気がした。
気のせいだと思った。
教室に入ると、
えまとしおりが先に来ていて、
普通に話している。
いつもと同じ。
でも、
視線を感じた。
一瞬だけ。
顔を上げると、
すぐ逸らされる。
(……?)
別に、
嫌な感じじゃない。
むしろ、
何も起きないように
気をつけられている感じ。
廊下を歩く。
後ろを振り返ると、
誰もいない。
でも、
足音が重なるタイミングが
不思議と合っている。
前を見ると、
りあがいる。
少し離れた場所に、
玲央。
視界の端に、
知らない人――
いや、
海翔の友達。
名前は、
ちゃんと知らない。
でも、
視線が優しい。
見てるのに、
見てないみたいな距離。
昼休み。
席を立とうとした瞬間、
椅子が引っかかる。
「危ない」
小さな声。
振り向くと、
普通そうな男子が
さっと椅子を押してくれていた。
「ありがとう」
そう言うと、
それだけで去っていく。
深追いしない。
それが、
逆に印象に残った。
放課後。
昇降口へ向かう途中、
少し騒がしい場所を通る。
いつもなら、
少し緊張する。
でも今日は、
何も起きなかった。
軽そうな男子が、
誰かと話しながら
自然に立ち位置を変えていた。
気づいたら、
私の進路が
すっと空いている。
家に帰ってから、
ふと考えた。
今日、
一度も
「怖い」と思わなかった。
何もなかったからじゃない。
何かが、
起きないように
されていた。
夜。
ベッドに寝転びながら、
修学旅行のことを思い出す。
守られていると、
重かった。
でも今は――
違う。
誰か一人の背中じゃなくて、
気づかれない位置に
人がいる。
前に出ない。
名前も出ない。
主張もしない。
ただ、
「そこに居る」。
それだけ。
(……増えたんだ)
守る人数が。
知らないところで。
私は、
その事実を
今日になって
やっと理解した。
それは、
息が詰まらない守り方だった。
選択肢を奪わない。
怖がらせない。
一人にしない。
私は、
何も知らないまま――
ちゃんと、
守られていた。