『良しっ! 抜けたぞぉっ!』
やがて大きな声を合わせた一行は、気が抜けてしまったのかここまで死守してきたギンブナフォーメーションを、誰ともなく瓦解させると、思い思いに休息を取るのであった。
大きく鰓(えら)を震わせて呼吸を整えるナッキの横で、口から出てきたサニーも必死に深呼吸をしながら言う。
「やばかったよねナッキ、何とか乗り越えられたけど帰りもあるんだよね? 考えただけで億劫(おっくう)になるよね」
「確かにね、でもまずはこの先にいるだろうニンゲンとの折衝(せっしょう)だよ、皆は大丈夫だって言っていたけどさ、やっぱり緊張しちゃうよね?」
「だよね、でも我々ギンブナにとってはそうなっちゃうよね、小さい頃からそう教わってきたんだしさぁ、いつも豪胆なヒットやあの冷静沈着なオーリだって恐れ戦(おのの)いていたじゃない? 仕方ない事だよ、きっと」
このサニーの言葉を聞いてナッキは出発時の事を思い出しながら言う。
「オーリって言えばさ、意外だったよね? まあ体型を気にする気持ちは理解出来るんだけどね、うふふふ、あのオーリがねぇー、皆のいない所でダンスでしょ? 腰を振り振りだっけ? うふふふ、皆は知っていたみたいだけど僕全然知らなかったからさぁー、うふふふ、面白かったぁー」
サニーはキョトンとした表情で返す。
「へ? 皆が知っている? ううん、誰も知らなかったと思うよ、だってアタシが言ったんだもん」
「は? サニーどう言う事さっ」
「あのね――――」
その後サニーから聞いた所によると、メダカ達との一体感を感じた直後、彼女は色々試したらしい事が判った。
皆が興味が無いだろう内容を話そうとしたが、ナッキ同様やはり駄目だったらしい。
ナッキはそこで諦めたが、サニーの実験にはまだ先があったようだ。
言葉で周囲の行動を制御する『蹂躙(カリンマ)』の力を乗算して使用してみたと言うのだ。
無論、発声が伴わない状況ではあったが、ナッキの口の外にいた百数十匹のメダカに対して、本気で想念を送ったそうだ。
曰く、
――――今から言う言葉を支持して! 頼むっ! 頼むぅ!
と言う、一途な思いだったという。
そうしておいてオーリの食事制限と人知れぬダンスの話をした所、あっさりと言葉にする事が出来たらしい。
因みに出発時の最後に発した台詞は、格好良いと思って言ったらしい…… ナッキはダサいと思ったが優しいので黙っている事に決めた。
とは言え、言うべき事だけは伝えて置かなければいけない、そう思ったナッキはいつに無く厳し目の表情を浮かべてサニーに言う。
「サニー、今回の君、いいや僕たちの発言でオーリは酷く傷付いてるかも知れないじゃないかぁ、だから、今回無事に皆の元へ帰れたら、しっかり説明しなくちゃいけないよ? 実験の為に適当なことを言ってしまったってね! その上でちゃんとオーリに謝罪するんだよ? 僕も一緒に謝るからさ! 判ったぁ?」
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