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四人が俯いたまま、ただ震えた体を抱き寄せる。顔を上げれば、目の前には惨劇が広がっている。 分かっているからこそ、このまま目を閉じて、このまま全てを終わらせてしまいたかった。


しかし、俺の右隣で密接していた体は離れていく。

何かおかしな考えが過ったのかと顔を上げると、そこには赤黒く染まった天井と床。目を伏せたくなる肉片が転がっていた。


「……っぷ」

胃より競り上がり口元より溢れそうになったものを、手の平で押さえ込む。

もう四度目だというのに、この教室には遺体が八体も転がっているのに、慣れることなどあるはずなかった。


「凛」

翔の声にまた顔を上げると凛が一人歩いていて、おそらく小田くんと内藤さんのものであろう大きな塊の前でしゃがみこんだ。

凛は内藤さんに恨みを抱いている。だからこそ何をするのかと心臓がはち切れんばかりに鼓動を鳴らすが、手にしていたシーツをそっとかけ、俯いて手を合わせていた。


『小田くんに、いつもこうやってキツく接していたんじゃないの? それじゃ、心変わりされても仕方ないよ。全て、小田くんが悪かったって言える?』

凛は小田くんだけは助けようと、内藤さんにそう説得した。

しかし人のことは傍目には分からないもので。内藤さんのキツイ性格に小田くんが心変わりしてしまったのではなく、小田くんの心変わりにより内藤さんを狂わせてしまった。

その事実を知らずに、傷付いていた内藤さんをより苦しめてしまった。

そんな後悔が、凛の背中より伝わってくる。

ただ小田くんを助けたかっただけなのに。


「冷やそう」

翔が凛の横にしゃがみ込み、共に手を合わせる。その後、手を合わせ俯いたままになっている姿にそう声をかけた。


「痛いだろ?」

翔は凛の手首をまじまじと見つめ、ボソッと呟いていた。


「いいの」

「痛いだろ?」

「いいってば!」

大きく息を切らし、はぁと息を吐いたかと思えば、小さな声が聞こえてきた。


「……次は、私達……。翔も気付いてるでしょう?」

前髪を掻き上げる右手首は明らかに赤く腫れ上がっており、痛みに顔を歪めないのが不思議なぐらいだった。


「そんなことより、早く行こう」

怪我をしていないであろう左手を握られた凛は、小さく「ごめん」と呟き、こちらに振り向くことなく二人は教室より出て行った。


翔も気付いているみたいだ。順番のことを。……俺達が、敵同士だったということを。



こうして置いて行かれた俺達は、デスゲーム会場にただ座り込んでいた。

このままでは俺達は、次のゲームで確実な死が訪れる。

凛は翔に許されない秘密があるみたいだが、あの誠実な性格から大したことではないだろうし、翔は許して指輪を外すだろう。

カップルが生存となれば、小春と俺はどうなるのだろうか? 指輪を外すチャンスをもらえるのか、それとも……。


カップル対抗戦。

アプリでルールを再確認した俺は、スマホを強く握り締めていた。

そうだよな。そんな甘くないよな。カップル生存となった時点で、俺達の指輪は……。

教室を見回すと、あちこちに飛び散る肉片と、血飛沫。

一時間後に全てが終わる。こんな疑心に溢れた狂ったゲームも、四人の友情も、俺達の命も。

全身が震え、頭がキーンと鳴り、抑えきれなかった物がまた口元より溢れてくる。

もう出てくるものなどないのに、どうして俺の体は何かを吐き出そうとするのだろうか?

こんな苦しい思いをするなら、いっそのこと。

指輪に手をかけようとすると、背中より確かな温もりを感じる。

顔を上げると、ずっと傍で泣いていた小春が背中を摩ってくれていた。


「……ありがとう」

「あっ」

俺と視線が合った途端に、すっと引っ込められた手。その真っ赤な目は左右に動き、唇をキュッと噛み締めていた。



このままでは、俺達に生きる道がない。

何も知らない小春を、このまま死なせてしまっていいのか。

情報弱者が搾取される世界。デスゲームではなおさらの、世の中における不条理。

だからこそ、俺は。


「小春、話がある」

そう告げた。


もう話が出来るのは最後だろうと、俺達は重い足を動かして階段を登っていく。

いつもは鍵がかかっていて絶対に入れない空間が、今日は解放されていた。

屋上。硬いドアを力ずくで開ければ眩しい光りが差し、強い紫外線が降り注いでいた。

日は傾いているというのに、変わらずの熱気が広がる屋上。

普段なら速攻で引き返すが、今日は広がる青空と、流れていく入道雲をただ眺めていた。


「……また、外の空気が吸えるなんて思ってなかったな……」

鼻を啜り、声を枯らせた小春は、赤い目をこっちに向けてきた。作った笑顔は引き攣り、どんどんと口角が下がっていく。


「……ごめん。あの音声を録音したのは、俺だったんだ」

そう告げた途端に完全に消えた、偽物の笑顔。眉を下げ、唇を震わせ、目に力が入っていきこちらを凝視してくる。

明らかな嫌悪を表した表情とは、このことをいうのだと思い知った。


「スマホに、盗聴アプリを仕込んだ」

俺は淡々と、己の罪を懺悔していった。誰にも知られたくなかった弱みを。

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