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陽が隣にいてくれるだけで、
教室の空気が少しだけ変わった気がした。
佐伯はまだその場に立っていたけれど、
ひよりの方を見ることはできず、
ただ視線を泳がせていた。
ひよりは、
陽の言葉が胸の奥で静かに響き続けていた。
──ひよりは悪くないよ。
その一言が、
ひよりの心の奥に張り付いていた“罪悪感の影”を
そっと剥がしていく。
ひよりは、
自分が悪いなんて思っていなかった。
でも、
「悪くない」と言われたことがなかった。
だから、
陽の言葉は胸の奥に深く沈んでいく。
陽がひよりの机の横に立ったまま、
静かに言う。
「ひより、今日は無理しなくていいよ。
席、移動する?」
ひよりは小さく首を振った。
逃げたいわけじゃない。
ただ、自分の心がこれ以上傷つくのを避けたいだけ。
陽はその意味をすぐに理解したように、
ひよりの机の横に腰を下ろした。
「じゃあ、俺がここにいる」
その言葉は、
ひよりの心にそっと寄り添うようだった。
佐伯は何か言いたげに口を開いたが、
陽の視線に気づいたのか、
結局何も言わずに離れていった。
ひよりは、
その背中を追わなかった。
追う必要なんてない。
向き合う必要もない。
ひよりは悪くないのだから。
陽がひよりの方を見ずに、
ぽつりと呟く。
「ひよりが嫌なことは、全部“嫌”でいいんだよ」
ひよりの胸がまた熱くなる。
嫌なものは嫌。
怖いものは怖い。
痛いものは痛い。
それを否定される筋合いはない。
ひよりは、
自分の膝の上で握りしめた手を少しだけ緩めた。
「……ありがとう」
その声は小さかったけれど、
陽にはちゃんと届いた。
陽は微笑むでもなく、
大げさに反応するでもなく、
ただ静かに頷いた。
その自然さが、
ひよりには救いだった。
チャイムが鳴り、
教室がざわつき始める。
ひよりは席を立つ前に、
陽の横顔をそっと見た。
陽がいてくれるだけで、
世界が少しだけ安全に見える。
ひよりは、
ほんの少しだけ息を吸いやすくなった。
#正体バレ
#再会