テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
あの日から14年。かつて「ひろぱ」「元貴」と呼び合った幼い二人の面影は、過酷な歳月と国家の動乱によって、無残にも塗りつぶされていました。
王都は、燃えていた。
かつて唐の色彩と日本の情緒が美しく混ざり合っていた街並みは、今や黒煙に包まれ、国民の怒号が天を突いている。
「戦えぬ王に、この国を任せられるか!」
「隣国が牙を剥いている今、我々に必要なのは慈悲ではなく力だ!」
反乱の火種は、瞬く間に燃え広がった。その中心にいるのは、国最強の剣士家系、若井家。そしてその現当主、若井滉斗である。
29歳になった滉斗の瞳には、かつて元貴に向けていた柔らかな光は微塵も残っていない。軍の徹底した教育と、孤独な戦いの日々が、彼の心を絶対的な「氷」へと変えていた。彼にとって今の任務は、ただ一つ。
「無能な王を排除し、強き国を再建すること」
幼い頃の約束など、凍てついた記憶の底に沈んだ、取るに足らない幻影に過ぎなかった。
一方、王邸の最上階。
かつて二人が「結婚しよう」と笑い合ったあの部屋で、大森元貴は独り、外の騒乱を見つめていた。
彼は美しい王へと成長していた。しかし、その身に宿る術式は今もなお、傷を癒やし、花を愛でるための「慈愛」の力のみ。戦場を駆ける攻撃術は、ついに開花することはなかった。
「……もう、すぐそこまで来ているんだね」
元貴は、震える手で胸元の翡翠を握りしめた。あの日、滉斗に渡したものと同じ石。滉斗が修行に出た後、元貴は彼を想い、同じ石で一対の守り袋を作らせていた。国民がどれだけ自分を罵ろうとも、元貴だけは信じていた。自分の盾となり、共に歩んでくれると誓った、あの少年の言葉を。
だが、重厚な扉を蹴破って現れた男の姿に、元貴の淡い期待は打ち砕かれる。
部屋に踏み込んできたのは、一人の男。
漆黒の軍服を纏い、腰には伝説の氷剣を帯びている。その男が放つ冷気だけで、豪華な部屋の空気は一瞬で氷点下へと叩き落とされた。
「……若井、滉斗」
元貴がその名を呼ぶ。震える声には、恐怖よりも深い悲しみが混じっていた。
しかし、目の前の男――滉斗は、眉ひとつ動かさない。その冷徹な瞳は、元貴を一国の王として、あるいは「排除すべき障害」としてしか捉えていなかった。
「お久しぶりです、国王陛下。……いえ、もうその呼び方も不要か」
滉斗がゆっくりと剣を抜く。
刀身が抜かれる音と共に、床には霜が走り、元貴の足元を凍りつかせていく。かつて滉斗が「元貴を守る」と言ったその手は、今や真っ直ぐに元貴の喉元を狙っていた。
「戦えぬ者に、この玉座は重すぎる。貴方の命をもって、この国の迷いを断つ」
無慈悲な言葉。氷よりも冷たい刃の先が、元貴の白い首筋に触れる。
元貴は逃げなかった。ただ、まっすぐに滉斗を見つめた。その瞳には、14年前から変わらない、深い慈愛が宿ったままで。
「……ひろぱ。君は本当に、全部忘れてしまったの?」
その問いかけに、滉斗の剣先が、ほんのわずかだけ、微かに震えた。
NEXT♡110
コメント
2件
・゚・(ノД`)・゚・。ウワァァン。ひろぱぁぁ😭
これからどうなるの!?!?