コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「……ナオトー、大丈夫ー?」
「え? 何がだ?」
「ナオトは気づいてないかもしれないけど、ナオトの目の下、私の髪の色と同じくらい真っ赤だよ?」
「え? そうなのか?」
「うん、そうだよ」
「そっか……。そんなに泣いてたのか……」
「え? なんか言った?」
「いや、なんでもない。それより、ほら……あれだ。自己紹介をしてくれないか?」
「あー、うん、そうだね。じゃあ、自己紹介しちゃうよー」
「おう、よろしく頼む」
彼がそう言うと、ヒバリはスッと立ち上がった。
「私は『四聖獣《しせいじゅう》』の一体『朱雀《すざく》』こと『ヒバリ』だよー! チャームポイントはこの赤くて長い髪と赤い瞳と全身の七割くらいを覆《おお》っている、この赤い包帯だよー。よろしくねー」
彼女がそう言うと、彼はパチパチと拍手をした。
「ありがとう、ヒバリ。とても分かりやすかったよ。ところでその包帯はいつ取るんだ?」
「うーん、まあ、あえて言うなら……エッチなことをする時……かな?」
「……ま、まあ、そうだよなー。さすがに包帯を巻いたまま、そんなことしないよなー」
彼が苦笑いをすると、彼女は彼の目の前に移動した。
「……けど、ナオトが望むのなら、包帯を体に巻いたまま、やってあげても……いいよ?」
ナオトのハートに、クリーンヒット。
彼は今すぐ彼女を抱きしめたいと思ったが、そんなことをすれば、自分にその気があると思われてしまう。
彼はそれを未然に防ぐために、自分の頬を叩いた。
「ナ、ナオト! 大丈夫!?」
心配そうに彼の頬に触れるヒバリ。
「あ、ああ、大丈夫だ。ただ、蚊《か》を殺しただけだから。あははははは」
「そうなの? なら、いいんだけど……」
彼は咳払《せきばら》いをすると、彼女にこう言った。
「それじゃあ、そろそろ本題に入ろうか。なあ、ヒバリ」
「なあに?」
「最近、困ってることとかないか?」
「うん、ないよー」
「そうか……。じゃあ、俺に何かしてほしいことはあるか?」
「うーん、そうだねー。じゃあ、ナオトの唾液《だえき》ちょうだーい」
「……え?」
えーっと、ヒバリは今、なんて言ったんだ?
俺の耳には俺の唾液が欲しいと聞こえたのだが。
「な、なあ、ヒバリ……」
「んー? なあにー?」
「お前、今さっき……俺の唾液が欲しいとか言わなかったか?」
「うん、言ったよ、はっきりと」
「えっと、それって、本気……なのか?」
「うん、本気だよー」
お、おかしい……。今までヒバリにそんな性癖《せいへき》はなかったはずだ……。
それなのに、どうして……。
も、もしかして、俺があまり構ってやらなかったせいで、開けてはいけない扉を開けてしまったのか?
それとも、ただ単に欲求不満なだけなのか?
うーん、よく分からん。
けど、このまま何もしないとヒバリをガッカリさせてしまうな……。
彼は少しの間、これからどうするかについて考えていた。
その間、ヒバリは彼の背中にしがみついて、彼の心臓の音を聞いていた。
その時、ヒバリの体内にある変なスイッチがオンになってしまった。
「……ねえ、ナオト」
「ん? なんだ?」
「私ね、さっきから体が熱いの……」
「な、なんだって! それは大変だ! えっと……と、とにかくお前は早く横になれ!」
「うん、分かった……」
彼女はゆっくり横になると、自分の右隣《みぎどなり》に彼が来るように、畳をポンポンと軽く叩いた。
「ナオトー、添い寝してー」
「いや、俺は今から水を取りに行くのだが……」
「そんなのあとでいいよー。ほら、早くー」
「……わ、分かった」
彼はしぶしぶ彼女のとなりに移動すると、ゆっくり横になった。
その直後、彼女は彼に抱きついた。
「お、おい、ヒバリ。熱があるんだから、ちゃんと横になれよ」
「えー、そんなー。この方が早く良くなりそうなのにー」
彼は病人の言うことは、ある程度聞いてやる性格《たち》なので、仕方なく彼女の望みを叶えてやることにした。
「……分かった。元気になるまで、こうしててやるよ」
「わーい、ありがとう、ナオトー。大好きー」
彼女は彼をギュッと抱きしめると、彼の胸に顔を擦《こす》り付けた。
「まったく……ヒバリは甘えん坊さんだな」
「だってー、ナオトのこと大好きなんだもん。甘えたくなるのは当然だよー」
「そういうもの……なのか?」
「うん、そうだよー。ずーっとこうしててもらいたいくらいだよー」
ヒバリは本当に俺のことが好きなんだな……。
けど、どうしてここまで俺のことを好《す》いてくれるのかな……。
俺にそんな特殊能力は、ないはずなのに……。
「……ねえ、ナオト」
「ん? なんだ?」
「……早くちょうだい」
「え? な、何のことだ?」
「とぼけないでよー。さっき私が言ったこと、忘れてるわけないよねー?」
「うっ……。そ、それは……」
彼が彼女から目を逸《そ》らすと、彼女は彼の目の前に移動して、彼の頬に手を添《そ》えた。
「……ねえ、ナオト。私のこと、好き?」
「え? あ、ああ、好きだぞ」
「じゃあ、早くちょうだい」
「い、いや、その……それとこれとは話が違うというか、なんというか……」
「じゃあ、私と契約する?」
「そ、それって、まさかミサキの時と同じことをするとか言うんじゃ……」
ミサキは『四聖獣《しせいじゅう》』の一体『玄武《げんぶ》』である。
「ううん、違うよ。けど、それよりもっと痛いことをするよ」
「もっと痛いこと?」
「うん、そうだよ。ナオトは私に血を与える。私はナオトに私の炎を分け与えるの」
「それって、つまり、俺がその炎に耐えきれなかったら……」
「うん、多分、消し炭になるね」
「う、嘘《うそ》だろ。そんなにすごいのか? お前の炎って」
「うん、すごいよ。だって、たまに制御できなくなりそうになるんだもん」
「それを食い止める方法はないのか? ……って、まさか、それって……」
「うん、そうだよ。私のマスターであるナオトの唾液を体内に取り込めば、少しはマシになるよ」
「そう、だったのか……。ごめんな、察しが悪くて」
「ううん、私の方こそ、ごめんね。伝えるの下手《へた》で」
「そんなことはない! お前はちゃんと俺に気づいてもらおうと努力していた! それなのに、俺は……」
彼が歯を食いしばると、彼女は微笑みを浮かべた。
「あまり自分を責めないで。私は気にしてないから」
「……けど、俺は……」
「ナオトは自分のことが許せないんだね。けど、私はナオトの唾液をもらえれば、それで……」
「分かった。じゃあ、口を開けてくれ……」
彼はそう言うと、彼女を抱き寄せた。
「え? ちょ、ちょっと、いきなりそんなにされたら……私……」
彼は彼女の額《ひたい》に自分の額《ひたい》を重ね合わせると、静かにこう言った。
「少しの間だけでいいから、俺の指示に従ってくれ。早めに終わらせるから」
「う、うん、分かった。じゃあ……優しくしてね?」
「……あまり期待はするな。俺もどこまで理性を保《たも》てるか分からないから……」
彼はそう言うと、彼女に仰向けになるよう促《うなが》した。
彼女は彼が自分の上に覆《おお》い被《かぶ》さる様《さま》を見ながら、彼に気づかれないように息を荒くさせていた。
彼が彼女の口の中に人差し指を入れると、彼はその中にある真っ赤な物体を人差し指で軽く触れた。
その後、彼女はそれを口外に突き出した。ヒクヒクと小刻みに震えるそれは、別の生き物のようでかわいらしかった。
彼は自分の舌を何度か軽く噛《か》んで、唾液を口内に溜《た》めると、彼女に目を閉じるよう指示した。
彼女はコクリと頷《うなず》くと、目を閉じた。暗闇の中、彼女は自分に顔を近づけてくる彼の体温をその身で感じていた。
彼は彼女の舌を唇《くちびる》で優しく挟《はさ》むと、口内にある透明な液体を彼女の舌へと流し始めた。
彼が彼女の舌を伝《つた》って、彼女の口内に入っていくそれを見ていると、彼女を自分色に染めているような気分になった。
彼はそれを三十秒以内に済ませると、彼女から離れようとした。
しかし、いつのまにか目を開いた彼女の物寂しそうな眼差しが、彼をその場から離れることができないようにしてしまったため、彼はその場に留《とど》まることにした。
彼が彼女の口内に、それを入れる度《たび》に彼女は幸せそうな表情を浮かべていた……。
「……ありがとう、ナオト。とってもおいしかったよ」
「そうか……。それは良かった」
二人はしばらくの間、抱きしめ合っていた。
その行為に特に深い意味はなかったが、二人はとても幸せそうな表情を浮かべていた。