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エイガ雫は、厚ぼったい唇にコンプレックスを抱えていた。その艶やかな唇には、控えめにグロスを塗って誤魔化すのだが、いつかは真っ赤なルージュが似合う男になりたいと考えていた。
プラチナのハートのイヤリングは、昨年の成人式に、妹のミリアがプレゼントしてくれたものだ。
スカイブルーの、皮のチョーカーはお守り代わり。
ネックレスはしない。
特に理由はなかった。
川崎駅の男性トイレの個室で、ひと通りの支度を整えたエイガは、静かに扉を開けて洗面所へ向かった。
スラリと伸びた長い足とミニスカート。
ツインテールを揺らしながら歩く姿に、トイレ内の男性達は固まった。
どこから見てもその姿は女性であり、しかも美しかった。
エイガという名は、東京ジェノサイド以前に働いていた店での源氏名で、ウリ専ホストとして、新宿界隈では名が知られていた。
顧客も多種多様で、力士や野球選手、政治家やタレントめ多く、その分チップは弾んだ。
エイガにはもう一つの顔もあった。
警視庁公安局の情報屋として、16歳の頃から活動していたのだ。
主な仕事は、特定政治団体の支援者、または企業情報の提供に関わるもので、中核となる実力者の多くは男色の傾向があった。
そんな大人達の世界を見て来たエイガは、現実世界をこう思っていた。
「チンケなクソみたいな世界…」
そんなエイガにとって、妹のミリアだけが生きる証であり、存在意義を肯定できる存在だった。