テラーノベル
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伊藤アリスは、先ほどからコピー機に点滅する「コピーできません」の白黒の表示をじっと見つめていた・・・
もうかれこれ30分ほど、このコピー機の前でじっとしている
―どうしてコピーできないのでしょう・・・―
アリスの目には不安が色濃く出ていた、今までコピーといえば、父の会社でコピー機を使ったことが1度だけあった、しかしあのコピー機はボタン一つで自動に印刷した用紙を吐き出していた
―お金を入れないといけないのでしょうか?―
彼女が肩をすぼめてうつむくと、肩までの淡い栗色の髪が丸みを帯びた顔にかかった、小柄な姿がますます小さく見える、アリスはもう一度コピーボタンを押してみた、しかし目の前の白い大きな機械は、虚しく「コピーできません」と表示を点滅させるだけだった
「どうしたの?アリスちん」
固まっているアリスを見かねた藤子が、アリスの後ろからぬっと現れた、いきなり話しかけられてアリスは緊張した
「あっ、あのっ、コピーが出来なくて・・・」
「ああ、それね、時々こうなるの、ジェニが得意よ、ジェニーーー!!」
途端にアリスは青くなった
「い・・・いえっ!大丈夫ですっ、み・・・皆さんお忙しいのに」
アリスは声を潜めて身を震わせた
「はーい、何ーー?」
ジェニがパタパタとやってきた、ジェニは大股で颯爽とアリス達がいる方へ向かって来た、シルバーのブリーフケースをコピー機の前に置く
「コピーできなくて、アリスちんが困っているわ、いつものアレやって」
「ああ・・・それならもっと早く言ってくれたらよかったのに、アリスちんのせいじゃないわよ、これ、最近紙詰まりよくするの」
―アリスちん・・・―
アリスは心の中でつぶやいた・・・こんなおかしなあだ名で呼ばれたことは今までなかったが、あえて口には出さなかった、すると、ジェニがコピー機を信じられない力で、斜めに三回チョップした
アリスの目が点になって固まった・・・するとさっきまで頑固としてエラー表示を出していたコピー機が、轟音を立てて動き出した
ガチャコン、ガチャコン・・・「ここの角度を45度で叩くのがコツよ!」
藤子が笑った
「もうそんなことしないで、新しいの買ったら?アリスちんが怖がってるわよ」
「真紀ちゃんの旦那様に、新予算を提案するわ」
「ごめんね、アリスちん、これで大丈夫よ、他に何か困ったことある?」
ジェニが微笑んでアリスに言った
「え・・・?いっ・・・いいえ、そんなっ、ありがとうございますっっ!」
慌ててアリスはキツツキのようにペコペコ頭を下げた、そこに動画制作エースの小林が三人の前をふらふら歩いて去って行った、げっそり疲れ切った顔で、ヌラヌラとナメクジのように左右に歩く、小林の後ろ姿を三人は見つめた
「なぁにぃ~?辛気臭いわねぇ~」
KLm🌹
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#異世界転移
花月夜れん
3,170
幻影の鴉
藤子が半笑いで言った
「今、彼に五件動画制作案件が来てるの、すっかり生気を吸われちゃって」
「すごいわね、大人気じゃない」
「ただ「ファンタスティック色白」の字幕文字のフォントが小林君だと・・・単調なゴシックばかりになって―」
「ああ・・・その件なら真紀ちゃんから聞いているわ、フォントで高級感を出すってヤツでしょ、それに関しては真紀ちゃん作戦があるみたい」
ワイワイと話し込みながら二人が去って行った、その後ろ姿を見送ったアリスは両手を組み、ホッと胸をなでおろした
―ああ・・・あの二人に話しかけられると、緊張しますわ―
アリスから見た、あの二人は、同じ世界に新しく生まれ変わった別の人種のように見えていた、それでも彼女達は、アリスとほんの少し年上なだけなのに、実の母親でさえめったに見せてくれない、優しい態度で接してくれる
こんな彼女達を好きにならずにいられる人なんているだろうか
幼い頃から・・・アリスは世界的宝石商(ITOMOTO)の令嬢として常に完璧を求められていた。学問や芸術などへの豊かな教養・・・今やアリスは20のマナー系の国家資格を取得し、有名女子大を卒業した今でも、5つの習い事教室に通い、日々教室と家の往復だった
そして今日は7時から【和文化おもてなしマナー専門家師範認定講座】があり、明日は檀家のお寺で家族で【真理について深く瞑想する講座】を受講する
今までは伊藤家の人間として、教養を身に着けることは、伊藤家長女の勤めであり、当然と思っていた、資格を取る事こそが自分に課せられている義務であり、一人前になれる道だと思っていた
そして、祖父が連れてきた騎士のような男性・・・松下竜馬の妻になることが当然だと思っていた・・・だってそれを幼い頃から教育されてきたのだから
彼に対して恋愛感情があるのかと言われれば、分からない・・・しかし自分の旦那様になる人が、これほど戦士のような男性だったら・・・いったいどうやって意思の疎通を測ればいいのだろう
密かにアリスは竜馬の事を心の中で「将軍」と呼んでいた。そしてもっと将軍を知りたくて、勇気を出して彼と一泊したいと告白しても、あっさり却下された
母は言う・・・結婚してしまえばお互いの生活を脅かさなければ好きに生きれば良いと、それが政略結婚だと・・・母は世界中の欲しいものは、なんでも手に入る立場でありながら、「息子」だけは手に入れることが出来なかった、そしてアリスという不出来な娘を育てなければならなかった、
そう・・・自分は母やお爺様が望んでいた「男」ではなく「女」なのだから、お爺様が見初めた男性と結婚してITOMOTO一族の事業をさらに拡大する事こそが自分の使命
しかし、つい先日見てしまった・・・将軍だと思っていた自分の夫になる人が女性と楽しそうにしている所を・・・アリスは車の中から偶然二人を見かけただけだから、話している内容までは分からなかったが
あのジェニさんが、驚いたことに将軍の背中を小突いた、すると将軍は嬉しそうにジェニさんの腕を掴んで何やら言って、ジェニさんは頬を赤らめた・・・アリスは驚いた・・・将軍のような彼でも、あんな人間らしい表情が出来るのだと
アリスは、俄然ジェニに興味が湧いた、そしてとうとう彼女の正体を突き止め、時間が経つにつれ、彼女と一緒に働いてみたくなった
彼女の何があれほど将軍の心を溶かしてしまうのだろう?お爺様にお願いすると、意外にも喜んで協力してくれた、そして将軍の会社の(広告マーケティング部)の彼女の元で働くことが出来た
アリスは初めて外で働くことが出来て喜んだ、しかしここに来てみれば、今まで習ってきたことや、資格は全く役に立たなかった
以前に将軍の後について、この会社に訪問した時は、みんな宇宙船のような薄暗いオフィスの中で、ロボットのようにデスクに向かって働いていたので、アリスはまったく魅力は感じなかった
しかし、このフロアの人達は、みんなリラックスしていて、かなり陽気だった、実際アリスはこの部署の人達ほどの陽キャ集団は見たことがなかった
オフィスの雰囲気は、毎日、日曜日のフリーマーケットのようだ、みんな賑やかで、活気にあふれているし、観葉植物に熱帯魚、ハムスターまでいる、一度アリスがお昼ごはんに召使いの作った、お弁当を一人で食べている時
営業部の男性がバスケットボールを人指し指でクルクル回して「アリスちんバスケする3on3だけど」とアリスに話しかけてきた時は、本当にびっくりした、お昼休みに3on3をするなんて、陽キャの極みだ
こんな眩しい人達を見たことがなかった、そしてこんなセリフを自分に言ってくる人も、少女漫画に出てくるキャラクターしかみたことがない
そして、運動神経がない自分にはありえない事だけど・・・もしも、アリスがゴールなんかを決めたら「やるじゃん」と言って絶対ハイタッチをしてくるような人種だ
営業部の人達は日頃、接しているジェニさんの人柄に影響を受けているのか、みんなリラックスしていて、かなり陽気で、彼らの間には常に冗談なのか、本気なのかわからない会話が飛びかっている、それをドキドキして、関係ない自分がいつも盗み聞きしている、まるで別の惑星にいるみたいだ
アリスはため息をついてオフィスを見渡した・・・こんな人達をジェニさんが一人でまとめているのだ・・・
彼女は気さくで・・・好感が持てて・・・勤務初日の当日から、常にアリスに親切にしてくれた
アリスの友人達といえば・・・神戸の有名女子大学を卒業してから、学友とは月に一回、オリエンタルホテルの「アフタヌーンお茶会」で集まるだけで。他は接点がない人ばかりになった
ジェニはアリスが会って来た、友人や知り合い・・・同性の誰とも似ても似つかず、アリスにはあまりにも眩しい人だった
肩を落としてホウッとため息とついた、とてもではないが、世間知らずの自分はジェニの足元にもおよばない
コメント
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第99話、読み終えました。アリスがコピー機に苦戦するシーンからもう、彼女の「世間知らずなお嬢様」ぶりが可愛くて微笑ましかったです。ジェニと藤子の明るいノリとのギャップが絶妙で、アリスが「アリスちん」呼びに内心戸惑いながらも、初めての職場の陽気な空気に少しずつほぐれていく感じが伝わってきました。将軍(竜馬)とジェニの関係も気になりますし、アリスがこれからどう変わっていくのか、続きがすごく楽しみです!