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上澤家での仕事を辞めてから数週間が経った。
あの日、お屋敷を飛び出してそのまま実家へ戻った私を両親は凄く心配しながらも詳しいことは何も聞いてこなかった。
少しして落ち着いてから、『色々あって仕事を辞めて来た』と話すと、『苦労を掛けてすまない、暫くゆっくりしなさい』と言われ、私は自宅に引きこもっていた。
巴さんと言い合いをして部屋を出た後、如月さんの元へ言って『今日限りで辞めます』と伝えると、全てを悟ったのか、『分かりました』とだけ言われ、簡単な書面でのやり取りを交わして終わった。
呆気ないし、他のメイドさんたちにも申し訳無い気持ちがあったけれど、あのまま働き続けるなんて私には出来なかった。
家に帰ってきて一人になって色々なことを考えたり、両親や友人と会話をしていくうちに元気を取り戻し、前まで働いていたコンビニに戻っておいでと声を掛けてもらったこともあって、そろそろ復帰をしようかと思っていた矢先のこと――。
「何、これ?」
久しぶりに実家のお店を手伝おうと思い、両親と共にお店までやって来ると、入口のドアに無数の張り紙が貼られていた。
内容を見てみると、【早く潰れろ!】【この店のケーキは全て消費期限切れを売ってる】【不味いくせにいつまでも営業を続けるな!】という、誹謗中傷や事実無根のものばかり。
これまでお客さんは来なくても、こんな嫌がらせをされたことは無かった。
「何なのよ、これ……」
父はすぐに警察に電話を掛けてくれたものの、私と母はその場に立ち尽くすばかり。
結局この日は片付けや警察とのやり取りに時間を取られて営業をすることは出来なくなった。
だけど、これはあくまでも始まりに過ぎなかった――。
その翌日、今度は店のSNSや口コミサイトで荒らしの被害に遭った。
書き込みの内容は張り紙の時と同じようなもので、恐らく同じ人間がやっているであろうことは容易に想像出来た。
立て続けに嫌がらせを受けて、両親はすっかり落ち込んでしまっていた。
このところ、お店を立て直す為に新作のお菓子を考案したりと寝る間も惜しんで努力を続けていた矢先のことだから、無理も無い。
私はSNSや口コミサイトに荒らしている人物のアカウントを停止や削除を依頼すると共に、書かれていることは事実無根だと訴えかけていくも、私の書き込みに反発する人まで出てきてしまい、やること全てが裏目に出てしまう。
張り紙の件もご近所を通して噂が回り、これまで以上にお店に興味を持ってくれる人は居なくなり、事態は悪化の一途を辿っていく。
この一件が原因で母は体調を崩してしまい、私は母に変わって家事全般を引き受けながら、気落ちした父を励まして何とかお店の営業を続けていた。
そんなある日、家事と母の看病を終えてお店の手伝いへ出向くと、裏口付近に怪しい男の人の姿を目撃した私は、
「何してるの!?」
そう大声を上げると、
「うるせぇな、こんな店、早く潰れちまえ!」
そう暴言を吐かれた刹那、何かが入った箱を投げつけて来た。