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𝓡𝓲𝓷𝓴𝓪☽ ໋꙳
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## 第48話:『決意の十字路』
ヘリオス基地を巡る激闘が幕を閉じ、ゼストは荒野を離れ、次なる補給地点へと潜航を続けていた。
アルヴィスとの別れを経て、艦内には束の間の静寂が訪れていたが、前線で激突した機体群の爪痕は深く残されたままであった。
ゼストの下部MS格納庫。
薄暗い照明の中、スパークの火花とオイルの匂いが立ち込める空間で、ウイングエックス・ディバイダーは静かに鎮座していた。
胸部装甲を外された機体の上で、リンはメインコンソールに接続されたコードの束を睨みつけ、溜息を吐いた。
「……ハァ、やっぱりね。緩和装置(リミッター)の物理ヒューズだけじゃなくて、内部の制御バイパス回路まで完全に焼き切れてパンクしてるわ。機体内部のフレームやスラスターには目立った損傷がないのが救いだけど……ゼロ、あなた自分が何をしたか分かってるの?」
機体の足元で、頭に薄い湿布を貼ったゼロが、生意気そうに腕を組んで鼻で笑った。
「へっ、減るもんじゃねえだろ。あの場面じゃ、リミッターを力任せに引き抜いてでもハモニカ砲の全出力をぶち込むしかなかったんだよ。結果としてセレスもノアも助かったんだ、文句ねえだろ?」
「文句は大ありよ!」
リンは工具を叩きつけるように作業台に置くと、ハシゴを降りてゼロの目の前に立ち塞がった。
「ガドルフさんが離れた工房で寝る間も惜しんで作り上げてくれたこの緩和装置は、あなたの脳をゼロシステムの暴走から守るための『命綱』なのよ! それを自分から断ち切るなんて、自殺行為と同じじゃない! 次に同じことをしたら、今度こそ脳の神経細胞が焼き切れて二度と目を覚ませなくなるわ!」
リンの必死の訴えに対し、ゼロは一瞬だけ表情を曇らせたが、すぐに不敵な笑みを浮かべ、己の胸を力強く叩いた。
「リンの姉ちゃん……心配かけて折角作ってもらったのに悪かったな。……だけどよ、俺はWXと生きるって決めたんだ。システムに呑まれるか俺が乗りこなすか、勝負はこっからだ」
まっすぐで、一切の迷いがないゼロの瞳。
その強い眼差しに押され、リンは言葉を詰まらせた。
「まったく……相変わらず聞き分けのないジャンク屋小僧ね。……分かったわよ。ガドルフさんにも連絡して、さらに高負荷に耐えられる予備の制御素子を取り寄せるわ。でもね、勝負に負けて死んだら承知しないんだから」
「へっ、当たり前だろ! 俺があの悪魔のシステムに負けるかよ!」
その頃、ゼストの居住区の一室では、ミラが浅い眠りの中でうなされていた。
『――冷たい……』
ミラの精神の中に、果てしない氷原のようなイメージが広がっていく。
それは不気味で、機機械的な狂気に満ちた感覚だった。
『風が吹いている……。新しい、冷たい風が……こちらへやってくる……』
暗雲の立ち込める空から、黒い影が舞い降りる。
それは人体を模した巨躯――ルカス軍が極密裏に組み上げた、新たなる試作モビルスーツの姿だった。
これまでの機体とは一線を画す、圧倒的な出力増幅器(パワージェネレーター)と重装甲を纏い、機体そのものが異常なまでに「身体強化(チューンナップ)」された恐ろしい殺戮兵器。
コクピットに座るのはルカス本人ではない。ルカス軍が新たに送り込んだ、冷徹な仮面のパイロット。
『潰された……たかが基地ひとつ潰された程度で、あの人は怯まない……。執念の刃が、私たちを切り裂きに来る……!』
「――っ!?」
ミラは弾かれたように跳び起き、荒い息を吐いた。
額にはびっしょりと冷や汗が滲み、全身が恐怖でガタガタと震えている。
「いまの夢は……ただの悪夢じゃない。ニュータイプの感応波が捉えた……すぐそこに迫っている『現実』……!」
ゼストの艦長室。
重厚なデスクを挟んで、艦長とミラが向き合っていた。
「……ルカス軍の新たなる試作機、か」
艦長はミラの打ち明けた内容を聞き、深く椅子に身体を預けた。
その表情には、若干の疑問と慎重さが浮かんでいた。
「ミラ、君のニュータイプとしての感覚や直感の鋭さは理解している。だが、ヘリオス基地は完全に崩壊し、ルカス軍の地方司令部は甚大な損害を受けたはずだ。常識的に考えれば、奴らは戦力を再編するために後方へ引くのが筋だろう。たかが基地ひとつ潰された程度で……いや、基地を失ったからこそ、即座にこれほどの新型機を投入して復讐に出る余裕があるのかね?」
軍事的な合理性から言えば、艦長の疑問は至極当然のものだった。
しかし、ミラはまっすぐに艦長を見つめ返し、切々と訴えた。
「艦長、ルカスという男は、自分のプライドを傷つけられたことを何よりも許せない人です。基地を失ったからこそ、己の執念を示すために、なりふり構わず温存していた最高戦力を繰り出してくるんです……!」
ミラは胸の上に強く両手を当て、自身の頭の中に残る「冷たい風」の感覚を言葉にした。
「私が夢で見たあの機体は、今までのルカス軍のMSとはまったく違います。機体そのものが禍々しく強化されていて、乗っているパイロットも……冷酷で、一切の迷いがない殺人兵器のような人でした。あの冷たい風は、確実にこのゼストを目指して接近しています!」
ミラの真摯な瞳と、一切のブレがない言葉。
艦長はしばらく沈黙し、彼女の顔をじっと見つめていたが、やがて静かに息を吐き出すと、デスクの通信用のスイッチを入れた。
「……分かった。君の言葉を信用しよう、ミラ」
「艦長……!」
「真の黒幕である『調律評議会』との最終決戦は、まだずっと先の話だ。だが、目の前にあるルカスの執念という火種を消さなければ、我々に未来はない。ミラの予兆が正しいとすれば、敵の襲撃は遠い先の話ではないはずだ」
艦長はブリッジと格納庫へ向けて、艦内放送のラインを開いた。
『全艦、第一警戒態勢へ移行。格納庫のジュード、ノア、そしてゼロ。機体の最終調整を急げ。ルカス軍の残党、そして奴らの送り込む『未知の刺客』に備えるのだ!』
艦長室を出たミラは、艦の窓から広がるどこまでも暗い夜空を見上げた。
遠くの闇の向こうから、夢の中で感じた「冷たい風」が、刻一刻と近づいてきているのを、彼女の皮膚は確かに感じ取っていた。
**次回予告**
ミラの予言通り、暗雲の交差点から現れたのは、ルカス軍が誇る最強の試作機『ヴィルベルヴィンド』!
機体性能を極限まで強化された悪魔のMSと、冷酷無比な新鋭パイロットがゼストへ襲い掛かる!
パンクしたリミッターを抱えたまま、ゼロとウイングエックスは迫り来る氷の嵐を撃ち払うことができるのか!?
次回、『迫撃の冷空』
**「どれだけ機体を強めようが、俺たちの魂まで凍りつかせられると思うなよ!!」**
コメント
1件
第58話、読み終わりました!リンとゼロのやりとり、すごく良かったです。リンの「♡♡♡行為と同じ」って言葉に、ただの整備士じゃなくて心からゼロを心配しているのが伝わってきて……でもゼロが「俺はWXと生きるって決めた」って言い返すところ、かっこよかったです。ミラの悪夢も不気味で、新しい敵「ヴィルベルヴィンド」の雰囲気がゾクッとしました。艦長がミラの言葉を信じる決断したのも、話の重みが出てますね。次回が楽しみです!