鳴り響く着信音に意識を呼び起こされ
淡い視界の中 、携帯を探し出す 。
「 はぃ 、お疲れ様です 」
「 昨日の夜頃から体調が優れなくて 、 」
「 すみません 、はい 」
「 ありがとうございます 」
「 は 、ッ 笑 」
カーテンの隙間から入り込む太陽光を
掌で防ぎ乍 カメラアプリを開く 。
腫れて歪んでいる不細工な左目を見て
軽薄に溜息を交えた笑い声を挙げる 。
別に 、虚偽を報告した訳ではない 。
アルコールを摂取していないのに吐き気が収まらなかったのも 、
視界が渦を巻いてベッドへ倒れ込んだのも事実だ 。
けれど何故かそれを嘘を吐いていると指を指す自分が居て 、
それにまた吐き気を催す 。
喉から出てくる胃液を
半分減ったペットボトルの水で胃に送り返して
骨の形が浮き出た腕で 、
見た目に反して重たい身体を起き上がらせる 。
サプリを数粒 。
水を200mm程度 。
口に含み 、ろくに返していなかった連絡を
片手で誤字混じり乍 返信していく 。
出来る限り無愛想に 、
そして短文で入力する事を意識して
フリック音を鳴らす 。
‘’ 羽那ちゃん大丈夫そ??汗
仕事終わり寄っていこっか??
↳ 大丈夫です 。
‘’ 合コン人数足りないから参加してくれない?
↳ ごめん 、無理 。
‘’ 4月18日 、会える?
↳ うん 。
‘’ 羽那 、ちゃんとご飯食べてる?
↳ 食べてるよ 。大丈夫 。
会社の同期 、上辺の友達 、
古くの男友達 、老いた母親 。
私が勝手に妄想した普通の知り合い登録数より
遥かに少ないであろう 、登録の数 。
目を通す度 、自分の交流の無さに
呆れと仄かな安堵を心に宿した 。
わたしはまだ 、そこにいる 。
シンプルなデザインの黒マスクで顔半分を隠して 、
白のTシャツと藍色の短パンに黒タイツで
涼しさを維持し乍 肌の露出を出来る限り避ける 。
まだ4月だが 、日本は夏を先取りしたらしい 。
太陽が地上の人間に存在を主張してくる 。
そのおかげで額に汗が伝って
申し訳程度にセットした前髪が崩れていく 。
「 久しぶり 」
まぁいいか 、古くの仲だ 。
きっとどうだってことない 。
そう心の中で言い切って 、
長身の 、顔を隠した彼に声をかけた 。
「 久しぶり 。よかった 、会えて 」
「 うん 。髪の毛 、茶色に戻したんだ 」
「 ああ 、やっぱり違和感あってさ 」
2月下旬くらいに見た雑誌の表紙では
キラキラとした金髪だったよね 。
彼 、速水 灯真 は
韓国アイドルのような艶のある茶髪で
無意識に見入ってしまうような演技をする “ 俳優 ” だったから 。
役の為とはいえ 、突然金髪にした時は
久しぶりに心から驚いた 。
私と同じような感想をSNSでよく見かけた覚えもある 。
完璧と言えるスタイルに加え
正統派イケメンのような綺麗な顔立ちで
かなりの女性人気も獲得している 。
唐突な変化で 速水 灯真 のファンは
騒ぎに騒ぎまくっていたのをよく覚えている 。
見てわかる通り 、速水 灯真 の知名度で
無防備に出歩けば盗撮をされる可能性が0とはいえない 。
共に下校していた時が嘘のように
変わった現在 。
あゝ 、哀しい 。
「 羽那? 」
思考を巡らせている時 、
無自覚に彼を見つめていたようだ 。
不安げにマスクを外して
少ししゃがみ乍 私の顔を伺う 。
そんな彼の優しさを蔑ろに受け流す 。
バレちゃ嫌でしょ 、と 。
「 ごめん 。大人っぽくなったなって 」
「 そう? 」
喉をくつくつと鳴らし乍 控えめに笑う姿は
幼少期と何一つ変わっておらず 、そんな様子に身体の力が抜けた 。
「 暑いし 、徐々行こっか 」
マスクを付け直して私の手を握り乍
エスコートするように手を引く 。
彼なりの気遣いなんだろう 。
私が過去に縋っている事を知っての行動 。
そんな昔のように手を握り乍笑いかけてくれる彼は 、
私が胸を痛んでいる事を知る事はない 。
👋🏻
コメント
5件
一 つ 一 つ の 感 情 の 書 き 方 が 綺 麗 💕 好 き で す
好きです
もう好きだよ。水を200mmとか何なんですかもう好きです。本当に大好き愛してる。 人間の感情をこんなに上手に表現出来るゆーはに心臓持ってかれました。 長文で語れなくてごめん