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「はあぁぁぁ……」
会社のラウンジで休憩中、一人ため息をついた。
瑞希くんと、はれて両想いになったわけだけど、こんなに幸せでいいのかなと不安になる。
罰が当たったりしないかな。
「なんですか?先輩、そんなにため息ついて」
「ああ、華ちゃん。休憩?」
「はい、休憩です!」
私の隣に座り、彼女はスマホを見ている。
「それで先輩、彼氏でもできたんですか?」
彼女の眼つきは鋭い。
「できて……。ないよ」
彼氏?ではないよね。
うーん。うーん。うーん。
「なんですか、その間は?」
「えっと……」
私が困っていると
「あの、ちょっと前から思ってたんですけど、先輩が好きな人って流星さんですよね?」
えっ?なになに?どうして?
春人さんが話した?いや、話さないよね?
なんで?どうして?
頭の中はクエッションマークだ。
「どうしてそう思うの?」
「だってー」
この子は何を言い出すのだろう。
「だって先輩。昼休みとか、スマホ見てニヤニヤしすぎなんですよ。気になってこの間、チラッと覗いたら見ちゃったんです。メッセージ」
ああ、もう終わった。隠せない。
「絶対言わないって約束してくれる?」
「先輩、華を信じてくれないんですか?」
信じられないよ、別れたこと話したじゃん。
ふとそう思ってしまったけれど。
「私の好きな人は、そう、流星さんだよ」
「やっぱり?」
あぁとテーブルに両肘をついて彼女は顔を隠した。
「先輩をホストクラブに連れて行った私が悪いんです。ホストさんなんて信じない方がいいです。あれは、疑似恋愛を楽しむだけなんです。だから諦めてください。まだ流星さんのお客さんにはなってないですよね。私に隠れてお店とか行ってますか?」
「行ってないよ!」
良かったと一言安心したように彼女は呟き
「まだ黒瀬さんの方がいいかもしれません」
華ちゃんは私の片思いだと思っているんだ。
なら瑞希くんにとっては、そっちの方がいいかも。
あ、そうだ。黒瀬さんの告白を断らないと。
私は、午後の休憩時に黒瀬さんを呼び出した。
「ごめんなさい。好きな人がいて」
「そっか。とても残念。だけど、考えてくれてありがとう」
彼はただそれだけ答え、誰もいない会議室を出て行った。
あっさりしている、これが大人の男性ってこと? 良かった、きちんと伝えられて。
ずるずる返事を伸ばしても、彼にとっても迷惑だよね。
そういえば今日、瑞希くんはお休みって言ってたな。何しているんだろう。お昼にスマホを見ても、何も連絡来てなかったな。
寝ているのかな?それとも、お客さんとデート?
女の子と笑顔で歩く彼を想像すると胸がチクっと痛んだ。
だめだだめだ、彼のことを好きって認めたんだから、これくらい乗り越えないと。
定時を迎えた。
今日は、残業しなくても良さそう。
「先輩、今日は定時で帰れそうですかー?」
すでに帰宅準備を済ませた華ちゃんが話しかけてくる。
「うんっ、帰れそう」
「じゃあ、途中まで一緒に帰りましょう?」
更衣室で着替えを済ませて、会社から出る。
「今日の夕ご飯は何ですかー?先輩、料理上手ですもんね」
「どうしようかな、華ちゃんは?」
そうですねと考え込み
「コンビニで買って帰ろうかなー」
そんなたわいない会話をしていた。
その時、違う部署の女の人達の会話が聞こえた。
「あの人、誰か待ってたのかな。出口聞かれちゃった。基本定時にあがれば、一般の人と同じだもんね。かっこ良かったな。彼女とか迎えに来たとか?」
「ねー、いいな。羨ましい」
その会話を華ちゃんも聞いていた。
「えー。いいな。イケメン。どこにいるんですかね?」
見たかったなーと彼女は辺りを見渡している。
「もういないよ、きっと」
イケメンか。
瑞希くんの方が絶対かっこ良いと思うけどな。
その時
「葵!」
私を呼ぶ声がした。
んっ?この声?
声がする方を振り返ると、黒いTシャツにスキニージーンズのラフな姿の瑞希くんが立っていた。
「みず……」
私が声を出そうとしたと同時に
「キャー!!流星さんっ!!」
華ちゃんの叫び声の方が大きかった。
「こんばんは。仕事お疲れ様」
華ちゃんに挨拶をしたあと
「葵を迎えに来た。一緒に帰ろう?」
これは昼間、私がなんとかしてバレないようにした努力が水の泡なんじゃない?
そう思ったが、華ちゃんはどう思ってるんのかな。
「流星さん、葵先輩を迎えに来たんですか?このままお店に一緒に行くとか?」
華ちゃんは、私が彼のお客さんだと思っているみたいだ。
瑞希くんは
「葵、彼女に話してないの?」
と一言。私は頷くしかなかった。
どうしよう、華ちゃん怒るかな。
「どういうことですかー?」
華ちゃんも流星さんのことはホストとして考えているから、なんて説明すればいいんだろう。
私が悩んでいるのがわかってか
「そっか。じゃあ、この後三人でご飯行かない?」
えっ、ご飯?
瑞希くん、どうするつもりなんだろ。
「えっ!いいんですか?行きますー」
夕ご飯の予定がなかった華ちゃんは、彼の提案に乗る気だ。私も断るわけにはいかないよね。
瑞希くんが案内してくれた個室のイタリアンレストランに向う。
「すごーい。オシャレ!さすが、流星さん!」
ソファタイプになっていて、照明も少し暗い。
完全個室のため、周りの目を気にしなくていいから楽だ。
とりあえず、華ちゃんの隣に座ろうとすると
「先輩はあっちでしょ?」と押され、瑞希くんの隣に座る。
「とりあえず、何か飲もうか?」
「私はビールで!」
華ちゃん、飲む気満々なんだ。
「葵は?」
私はお酒を飲んでこの失敗しちゃったから。
「先輩もビールでいいです」
「えっ?ちょっと!」
「酔っても俺が一緒だから大丈夫だよ」
ボソっと彼が囁いた。
ビールを三つ頼み、お料理は、瑞希くんがおススメを選んでくれた。
「ほんっと!流星さんって、プロですね?女の子の好みがわかってる!!」
頼んだメニューを見ながら、華ちゃんがはしゃぐ。
「まぁ、仕事柄ね」
三人で乾杯をした。
「で、流星さんに早速お願いなんですけど、葵先輩をお客さんとして狙わないでください!」
ビールを半分まで一気に飲んだ華ちゃんは、グラスを置きながら瑞希くんに目線を向ける。
「先輩、大好きだった彼氏とまだ別れてそんなに経ってないし、酷い別れ方したし、これ以上、トラウマを残したら一生結婚できなくなっちゃいますので」
華ちゃん、私のこと、そんなに心配してくれてるんだ。嬉しい。
「俺、葵をお客さんとして店に呼ぶつもりはないよ?」
「それって、ホストさんのやり方ですよね?知ってますよ。そういう営業方法があるって」
華ちゃんは、彼から視線を背けない。
「そうだね。そういう方法もあるね」
「やっぱり!!」
なんか空気悪くなっちゃう。
私が言わないと、でもどこまで彼女に話していいのかわからない。瑞希くんに迷惑をかけることになっちゃう。
「俺さ、三年くらい前から葵のことが好きだったんだ。もちろん、俺の片思いっていうか、憧れの人だけど」
「えっ?」
「えっ!?」
二人で声を揃える。
瑞希くん、話しちゃってもいいの?
それから彼は、私と初めて出会った時のこと、ホストクラブで再会したこと、今の生活までを隠すことなく華ちゃんに話した。
「何で先輩、話してくれなかったんですか?」
華ちゃんは顔を膨らませている。
「ごめっ」
謝ろうとしたが
「俺のことを気遣ってくれて話せなかったんだよ。もし本命の女の子がいるってバレたら面倒だから。だから、葵は悪くないんだ。この仕事をしている俺がいけないから。彼女のことは責めないで?」
コメント
1件
華ちゃんもいろいろ心配してくれてるのね。