ラグは背を向け、教会の出口へと歩きながら手をひらひらと振った。
「けどなぁ――また来るね。僕、諦め悪いタイプだし」
朝の光の中、ラグの赤い髪が揺れる。その背中はふざけているようでいて、まるで不吉な予告のようだった。
「……ラグ!」
呼び止めるルイズの声。しかしラグは振り返らない。
「次はもっと、楽しくしようね。」
その言葉だけを残して、ラグは廃教会から姿を消した。
静寂が戻る。冷えた空気が急に重く感じられる。
「……なんだよ、あいつ」
ルイズは鉄パイプを取り落とし、荒く息を吐く。怒りでも恐怖でもない、もっと正体のわからないざわつきが胸の奥に残っていた。
ロディは無言だった。だがその表情には僅かな警戒と――別の何かが浮かんでいる。それは、何かに気づきかけている人間の顔。
「ロディ……?」
問いかけに、ロディはゆっくりと首を振った。
「……いや、なんでもない。せやけど、アイツ――」
「敵か?」
ロディは短く息を吐き、小さく頷いた。
「少なくとも、味方ではないやろな」
そう言ってロディは崩れた長椅子から腰を上げる。まだ傷が痛むはずなのに、もう前を見て歩き出していた。
「おい、どこ行く気だよ」
「外。アイツが残した気配、もう少し確かめたい。……ルイズ、お前は休んどけ」
「は? 俺も行くに決まっとるやろ」
その返答を聞き、ロディは振り返る。そして、ほんの少しだけ笑った。
「せやな。……一緒に行こか」
二人は、朝の光に満ちた外へと歩き出した。
――だがその時、ふとルイズの頭に引っかかる言葉があった。
――“楽しかったことだけ覚えてる”
――“夏の物語の続き”
(……なんで。なんであいつ、あんな言い方を……)
まるでラグは――
“過去を知っている”
“俺とロディの何かを知っている”
そう言っているかのようだった。
胸の鼓動が早くなる。嫌な予感がする。
そして――
遠い記憶の奥で、誰かが自分を呼ぶ声が、一瞬だけ確かに聞こえた気がした。
――ルイ、ズ。
だがルイズは頭を振り、その声をかき消した。
「おい、置いてくで」
「あぁ、今行くわ」
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