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9 - 第8話:終わらない機構

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2025年05月02日

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第8話:終わらない機構


「……もう、止まらないんだよ。あの獅子は」


そう言ったのは、ノボトフ家の祖父――**ミハイル(72)**だった。

元軍人の彼は、軍帽に深い皺を刻んだ顔。凍てつく目をして、ずっとライオン像を見続けていた。


彼の隣に座るのは、家族を失った少年・ルーク(13)。

母を凍らされ、兄ノアの秘密を知ってから、何も言わなくなった。


「昔の兵器と同じだ。誰も止められない。造ったやつも、もういないんだ」





その夜、テレビが唐突に点いた。


画面は何も映ってなかったが、しばらくして**映像の“記録データ”**が再生されはじめた。


古びた映像。

どこかの白い部屋。円卓に座った“人型”の集団。


服装はばらばら。人間のようで、人間ではない。

誰かが言った。


「さて、次の家族はどうする? “幼い妹が攫われる展開”は受けがいいぞ」


別の誰かが笑った。


「願いも、祈りも、いい素材になる。叫び声は視聴率が跳ねる」


映像は5秒で途切れた。


テレビが発する熱だけが、異常に高かった。





マシロ家の父・タカユキが呟いた。


「……娯楽だったのか、俺たちは」


誰も答えなかった。


ユミはソウタを抱きながら、ただ涙を落とした。


「じゃあ、なぜソウタが……子供まで……」





翌朝、キブル(17)は、崩れかけたライオン像のそばに立っていた。


その目は光を取り戻しつつあった。

けれど、それは赤く、警告のように滲んだ光だった。


像の口はわずかに開き、声にならない呻きのような音が漏れていた。


「……いまも……なお……まもれ……」

「……ちょうせい……ふのう……」

「……なか……いり……さいせい……」


その言葉に、キブルは顔を上げた。


「“中に入れ”って……?」





そのとき、地面がわずかに振動した。

雪の奥から、地下への扉のようなものが現れた。

錆びた金属板。中央には、かすれて読めない文字と、ライオンの紋章が刻まれていた。


テレビが再びノイズを混じえながら言った。


「――選定者、識別中――」

「制御核、解放条件:最終家族の合意」

「中に入る者が、“次の命令”を選択可能」





マシロ家の小屋に戻ったカナは、両親に伝えた。


「入るしかない。誰かが、終わらせないと」


父は黙った。

母は泣きそうな顔でカナを見つめた。

ソウタが手を握った。


「ぼくもいく」


「だめだよ」


「でも、姉ちゃんだけに任せたくないもん」





その夜、ライオン像の目が一度だけ青く光った。


それは、初めて見せた“安堵”のような色だった。





彼らはまだ知らなかった。

像の中に、何が待っているのかを。

けれど、止まらない機構に、誰かが手をかけようとしていた。



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