新曲のMV撮影で来た自然が溢れる場所で綺麗な空と山々を眺めている。
隣には大好きな人。
りょうちゃんが喜ぶと思ってこの場所を選んだ。
若井が景色を撮影しに行っている間、俺とりょうちゃんはアイスを食べて待っている。
どうしても2人になりたくてスタッフにも離れてもらった。
「もときのアイス、一口ちょうだい」
「絶対狙ってると思った」
「ダメ?」
ダメなわけない。
少し困ったような顔をした、その表情が可愛くて今すぐ抱き締めたい。
「食べな?」
俺の食べかけのアイスをりょうちゃんの口元に持っていく。
りょうちゃんが髪の毛を耳にかけながら、アイスにかじりつく。
あ…エロい。
りょうちゃんの少し開いた唇を見たら、胸の奥がギュっとなって今すぐ押し倒したいくらいの感情に駆られる。
「美味しい!」
りょうちゃんは俺のよこしまな感情に気付かず無邪気に笑う。
その笑顔が世界で一番好き。
俺の真っ暗な世界で唯一光る安らぎ。
「りょうちゃん、アイスついてる」
俺はりょうちゃんの唇を親指で拭う。
柔らか…
「りょうちゃん…俺の親指舐めて?りょうちゃんのせいで汚れたから…」
俺はそのまま自分の親指をりょうちゃんの口の中に無理やり入れた。
「ん…」
りょうちゃんの声が漏れると舌で指を舐められた。あぁ、もう限界。
身体が熱くなってくる。
「りょうちゃん…何でも俺の言うこと聞かなくていいんだよ?」
「何でもはない。今のは汚しちゃって悪かったから…」
「んなわけないだろ。普通舐めねーよ男友達の指なんか…」
言ってて悲しくなる。
いつまでも「友達」
「もときのは平気。嫌じゃない」
「やめろ、そうゆうの。勘違いするだろ」
「何の話…?」
「鈍感だな、相変わらず…」
喧嘩したかった訳じゃない。
気持ちを押し付けたい訳じゃない。
手に入らなくても良い。
ただそばにいて欲しい。
お願い、嫌いにならないで。
でも好きになって欲しい。
同じ気持ちで本当はいて欲しい。
恋は大嫌い。
感情が乱されるから。
それでも…
「りょうちゃんとさ、同じ学校だったら、同じ年だったら毎日夏は放課後とかアイス食べに行ってたかもね」
「それ、すごい楽しそう!」
「うん、だからさこの場所でりょうちゃんと青春ごっこしたかったのかも」
「学生時代に出会えてなくても、今もときと一緒に居られて楽しいよ」
「りょうちゃん…」
なんて嬉しいこと言うんだよ。
涙出そう。
この恋が叶わなくてもさ、いいんだ。
その言葉ひとつで救われる。
「あ、もとき。俺のアイスもうなくなるから最後の一口食べなよ」
「ほとんどのこってねーじゃん!」
「あっ!!」
とりょうちゃんが言うと、最後の一口が溶けて棒から落ちた。
「もったいない…」
りょうちゃんが落ち込んでいる。
その姿がまた可愛い。
アイスなんかいくらでも買ってあげるのに。
「もときに食べさせてあげられなかった…」
「だったら最初に俺に一口くれよ」
と俺は笑う。
「もとき口開けて?」
「えっ…」
と驚いた途端にりょうちゃんの親指が俺の口の中に入ってきた。
イチゴの味…
俺は恥ずかしさでりょうちゃんの手を振り払う。
口の中に残るりょうちゃんの指の感覚…
「何すんだよっ」
と言いながらたぶん俺は耳まで真っ赤だ。
恥ずかしくてりょうちゃんの顔が見れない。
「味残ってたでしょ?」
「その為に舐めさせたの?」
「もとき、俺の顔見て?」
「やだやだ今は絶対やだ!」
こんなんでドキドキが止まらないとか中学生みたい。
うつむく俺の頬をりょうちゃんが両手で優しく触れる。
驚いて上を向いた瞬間、りょうちゃんの唇が俺の唇に重なった。
「俺の唇に味残ってたでしょ?イチゴの」
俺はさらに顔が赤くなるのを感じながら
「はぁっ!?はぁぁぁ!?その為にキス…キスなんてする?!」
と俺は大声を出した。
「もとき、静かにして」
りょうちゃんがの手が俺の肩に触れるともう一度優しくキスしてきた。
何これ夢なのか…俺の妄想?
夢なら覚めるなよ…
と思いながら俺は背の高いりょうちゃんに届くよう首に手を回しキスを続けた。
「あっつ…」
りょうちゃんの首から汗が垂れる。
「りょうちゃん…今のキスもアイスの味見させようとしたの?」
「どうだろうね?」
りょうちゃんがいつもの優しい微笑みで俺を見つめる。
うるさいくらいに鳴いていた蝉の声がピタッと止まる。
こんな風な夏を何度も何度も過ごせたら…
ああ、やっぱりこんな青春を君と過ごしたかったななんて…
「来年もさ、ここ来たいね」
りょうちゃんが言う。
「うん…」
としか言えない俺は何故か泣きそうで、この夏を抱き締める。
来年も絶対に一緒に居ような、と心の中で思いながら…
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