尿意があるわけでは無いから手招きされるがまま隣に座った。
「見間違いかと思ったんだけど、やっぱり甲斐くんだったんだ。わたしには合コンに見えるけど本当は?」
「ちょっと理由があって先輩につきあってる」
浮気現場を押さえられた亭主のような感覚だ。
「鈴木さんは誰かと待ち合わせ?」
そう聞くと鈴木里子は「瞳」と言って睨んでいる。
って、瞳!?鈴木さんと出かけるとは聞いてなかった、というか急遽決めたのか?というかタイミングが悪すぎる。
「もしかしてセフレコレクターは健在ってこと」
「確かに今までの俺の行いからしたら信じてもらえないと思うが、下心があるわけじゃない」
鈴木里子はサワーらしきものが入ったジョッキを手に持つとグイッと飲んだ。
「純粋な気持ちで女子大のお嬢さんたちと清い合コン中ですってこと?そんで、ピュアな気持ちでお持ち帰りしますってこと?」
鈴木里子は顔が広く、セフレだった相手の名前を知られている。
それが、こんな状況を見られたとすれば疑われても仕方がない。
心の中でため息をつく。
誤魔化すよりは鈴木里子には正直に話したほうがいいかもしれないと思った時、あの番号から着信が入り、震え続けるスマホを見つめていると
「出ないの」
さらに低温で氷ができそうなほどの声色で言いながらスマホの画面を指差している。
仕方なくマオの事を説明して今ここにいる理由を話した。
「この番号がマオっていう女の番号かどうかを確かめた方がいいんじゃないの」
「ああ、後でかけてみるつもりだ。名前も勤め先もわかったし。ところで瞳はいつ来るんだ?」
「嘘よ。単にわたしがぼっち食べしてただけ」
「ぼっち食べ?」
「一人でのんびりしたい時とかあるでしょ。居酒屋の食べ物が好きでお酒の代わりにソフトドリンクを飲みながらまったり食事をしているのよ。てか、甲斐くんてまだ未成年だよね?」
「俺も先輩に付き合ってるだけで酒は飲んでないよ。別に法を犯してまで酒を飲む必要ないし」
今までもしらふであるから間違いを犯すことなく安全にワンナイトを楽しんでいた。
鈴木里子はサワーではないジンジャーエールらしきものを飲み干した。
「最低。わたしはもう帰るから」
「俺も帰るよ、用事は済んだし悪い一緒に来て」
そう言って、鈴木里子を連れて合コンの席に戻ると女性陣はドン引きしているようだ。
トイレに行くとか行って女連れで戻ってくるとかゲスの極みだろう。
引き止められる気配もなく場を抜けることができた。
「相談料として支払うよ」
俺は鈴木里子の伝票を持って会計を済ませた。
「相談料というより口止め料じゃないの」
「そっちもよろしく」
「最低。でも、そのマオとか言う女、瞳に危害とか加えないよね?瞳に何かあったり甲斐くんが蔑ろにするようならセフレコレクターの下半身ゲス野郎って真実を伝えるから」
「させないし、しないよ。内緒にしようとしてもこんな風に酒も飲まない癖に居酒屋でボッチ飲みする奴に見つかるんだから」
酔った人が陽気に行き交う道を歩いて駅に到着するとお互い反対のホームに別れ、人気(ひとけ)の無いところまで歩いて行くと着信の番号をタップすると1コールで繋がった。