アーサーと俺だけでは、エリアーナ嬢も警戒をすると思い、アーサーの了承を得て、俺の婚約者のマリエルにも協力をお願いした。
エリアーナ嬢とマリエルは同級生ということもあり、顔見知りがいれば少しは緊張も解ほぐれるだろう。
マリエルもふたりの事情を聞いて最初は大層驚いていたが、協力を二つ返事でしてくれた。
エリアーナ嬢に執行部でのお手伝いをしてもらう時は、エリアーナ嬢が安心できる雰囲気づくりを心がけるのと、カップル同士だと恋愛において、お互い良い刺激になると踏んで、基本は4人で仕事をすることにした。
アーサーは利き手が使えないことになっているので、代筆の仕事をエリアーナ嬢にお願いしたのだが、それだとふたりの会話が全く弾まない。
そばでマリエルと俺はハラハラしながら見守っていたが、ふたりは流れ作業で右から左に書類が移動するだけと一言二言交わすのみ。あとは黙々と作業を続けた。
ついには、ふたりの指がほんのちょっと触れただけで、手指を消毒しますか?と尋ねるエリアーナ嬢も大概だけど、ほんのちょっこと触れただけで、顔を真っ赤にしてテンパっているアーサーもアーサーで、消毒すると返事しているんだから、救いようがない。
この状況を打開するべく、マリエルと相談してダブルデート作戦を決行することにした。
以前から王都で評判になっているらしい雑貨屋さんがあるとマリエルが教えてくれた。
さすがは女性。お茶会とかで情報収集をしているだけはある。
そこに4人で行って、その後はケーキが美味しいカフェでお茶をして帰る、王道のデートコースだ。
ダブルデートをアーサーに提案すると、顔を綻ばせて喜んだ。
ボソッと
「プレゼントだ」
と呟いていたのを俺は聞き逃しはしない。
決行当日は、作戦どおりにダブルデートになんとか、こじつけられた。
俺には可愛い過ぎる雑貨屋さんで、マリエルがいないと1人では絶対入る勇気が出そうにない店だった。
変に緊張するダブルデートでも、楽しそうに雑貨を見ているマリエルは本当に可愛い。
手を繋ごうと俺から手を差し出せば、恥ずかしそうにしながらも、手のひらを差し出してくるマリエル。
可愛い過ぎて、悶え死にしそうになる。
手を繋ぎ、一緒に店内を見て回る。
チラッとアーサーとエリアーナ嬢の方を見れば、少し距離はあるもののふたりでなにか会話をしながらリボンを見ていた。
エリアーナ嬢も嫌がっている様子もない。
良かったと安堵した時だった。
アーサーがエリアーナ嬢の髪の毛に手を伸ばし、ひと束掬って口づけをした。
俺はあ然とし、立ち尽くす。
あのアーサーがエリアーナ嬢に対し、積極的に接しているではないか。
愛おしそうに髪の毛を見つめ手に取るアーサーの顔は、女神に愛を乞うかのように切なげで、あんなアーサーの表情かおを見るのは初めてだった。
気づけばマリエルもふたりを凝視している。
マリエルと目が合う。
俺の手が、俺の理性を無視して勝手にマリエルの髪を触る。
黒く細くサラサラでふんわり甘い良い匂いがする。
そっと髪の毛の先に口づけをすると、マリエルは大きく目を見開き、頬を赤らめた。
ダブルデートで刺激をもらっているのは、実は俺らの方じゃないのか。
この後のお茶でも、刺激をもらいっぱなしだった。
作戦は順調だったのにキャロル・ドストンという男爵令嬢が転校してきてから、急展開となる。
アーサーはキャロル嬢は前世の妹だと言う。
確かに近づいてくる人間に対して、ある一定の距離を保つアーサーにしては珍しく、キャロル嬢には遠慮がない物言いをする。
キャロル嬢もいつものアーサー狙いのご令嬢達と一緒かと思いきや、一切そんな雰囲気はなく、ハッキリとアーサーにヘタレと言うんだから驚いた。
ふたりのやり取りを見ていると、どう見ても前世は優しい兄と気の強い妹だったんだろうと構図が見えてくる。
キャロル嬢が言い出したエリアーナ嬢の気持ちを知る作戦。俺は正直に言って気が進まない。
マリエルも眉を顰ひそめて聞いていた。
「なにかあったら、俺達がフォローに入る」
マリエルと共に覚悟を決めた。
この後、やはり懸念してた通り、大変なことになった。
さて、どうするか。
逃げるエリアーナ嬢と追うアーサー。
まずは4人でまたダブルデートでもしようかな。次はピクニックが良いな。
マリエルに膝枕とかされてみたい。
ダブルデートが意外にも楽しいのは俺だけか?
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