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大学のキャンパスは、もうすっかり夏の気配だった。午後の講義を終えたらんは、校門の外で待ち合わせていたこさめを見つけると、自然と顔が緩んだ。
「遅いぞー、こさめ」
らんは少し怒ったように言ったが、その声には甘さが混じっていた。
「ごめんごめん!今日は友達と遊んでてさ、つい時間忘れちゃった」
こさめは満面の笑みで駆け寄ってきた。やんちゃな彼の髪は汗で少し乱れている。
「らんくん、見てよ!今日買った新しいリストバンド。これ、俺っぽいかな?」
「似合うじゃん」
らんは穏やかに、こさめの腕に触れて確かめるように指を這わせた。
「そんなお前の腕が傷だらけのはやめろって、何度言ったらわかるんだよ」
こさめは「へへっ」と照れ笑いを浮かべて、らんの前で腕をぐるりと見せた。
「でも、これも俺の証だから」
らんはため息をつく。
「証でもいいけど、怪我は放っておけねぇ。こさめが無茶して痛い目見るのは俺が許さねぇからな」
こさめはらんの言葉に少し戸惑いながらも、静かに頷いた。
「ありがとう。らんくんにそう言ってもらえるの、俺……なんか嬉しいよ」
「わかってんの?」
「うん。だって俺、らんくんのこと、大好きだから」
らんの顔が一瞬強張った。普段は絶対に見せないが、心の奥底から湧き上がる感情を隠せなかった。
「俺もだ。こさめ……おまえがいるから、俺は強くなれる」
こさめはらんの胸に顔を埋める。夕陽がふたりの輪郭をオレンジ色に染めていた。
「これからも、ずっと一緒だ」
らんの声は小さかったが、その重みは確かだった。
___
ある蒸し暑い夕暮れ、街の路地裏。いるまは、いつものように腕まくりをし、ひまなつを背中におんぶして歩いていた。
「……俺、ちょっと重くなったんじゃね?」
ひまなつが気だるげに呟く。
「お前はいつだって軽い。俺が支えてやるからな」
いるまの声は低く、けれどどこか優しい。ひまなつは素直に目を閉じて、その言葉を受け止める。
「……あんまり無茶すんなよ。怪我しないように気をつけろよな」
「心配すんな。俺は喧嘩慣れしてんだから」
いるまの腕に巻かれた包帯が、今日の戦いの跡を物語っていた。
「いるまの“慣れてる”は、毎度怖いんだよな」
「……おまえが怪我したら、俺、どうなるか分かんねぇし」
ひまなつはそれを聞いて、初めてわずかに身を強ばらせる。
「……そこまで考えてなかった」
いるまの言葉に、ひまなつは小さく笑った。
「俺のこと、相棒だって言ってくれるじゃん。あんまり傷つけんなよ?」
「相棒……な」
いるまは無言でひまなつを背中から下ろし、軽く肩を叩いた。
「……おまえのこと、何があっても守るからな」
ひまなつは何も返せなかった。ただ、いるまの存在が心の支えだと、改めて感じていた。
放課後の図書館。
すちはいつものように静かにみことの隣に座り、そっと彼の傷ついた手を包み込んでいた。
「みこと、また喧嘩か?」
すちの声は穏やかだが、芯がある。
「うん……でも、痛くないよ」
みことは少し俯き、遠くを見るような目で答えた。
その目はいつもどこか虚ろで、何かを隠しているように見えた。
「痛みは感じなくても、心はどう?」
すちは静かに問う。
「……わからない。自分でもわからないんだ」
みことは無表情のまま、すちの手をぎゅっと握った。
「俺、いつもここにいてくれるすちが、ちょっと怖い」
「怖い?」
「うん。優しすぎて、何も言えなくなる。すちの手の温かさが……離れられなくて」
すちは少し微笑み、みことの頭を優しく撫でる。
「それでいいんだよ。おまえが求めるなら、俺はここにいる」
「ありがとう、すち……俺、もっと強くなりたい。でもどうしても、一人じゃ無理で」
すちは黙って頷き、みことの背中をそっと支えた。
「一緒に強くなろう。お前となら、どんな嵐も越えられる」
みことは、ほんの少しだけ笑顔を見せた。