テラーノベル
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私がお茶を出すと、雨森さんが静かに話を始めた。
「日向凛(ひなたりん)という三十六歳の主婦なのじゃが、ワシから見ても体内から大量の邪気を溢れさせておる。
それが、尋常な量でないのが気になってのう」
深刻な表情で頷いた白川先生が、雨森さんに質問を投げ掛けた。
「その日向さんと、雨森さんはどのようなご関係ですか?」
すると、「関係というほどの繋がりではないのじゃが…」と前置きしてから、
「五年ほど前にウチの神社で結婚式を挙げてから、毎月、欠かさずお朔日に参拝してくれておる。
いつも、莉子(りこ)という小さな女の子を連れておるが、ここ一年は元気がなくて気になっておった。
ところが昨日、たまたま参拝に来た姿を見掛けると、そういう状態であったという訳じゃ。
まあ、他人のことなど放っておけと言われればそれまでじゃが、連れている小さな娘の不幸を思うと、どうにも居たたまれなくてな…
あれだけの邪気を放出する母親を持ちながら、その娘が、幸せに暮らせるとは思えんのだ」
私が、白川先生を見ると、白川先生も私の方をチラッと見てから大きなため息をついた。
「しかし、そういう関係だと鍼供養を勧めるのは難しいですね」と言う白川先生の言葉に、私も大きく頷いた。
「そうですね。
女性の場合、普段から警戒しているので、赤の他人から急に声を掛けられて、怪しい治療を勧められても、はい。受けます。とはなりませんよね」
私達の言葉に、雨森さんも大きく頷いた。
「やはり、そこが一番の問題じゃな。
ワシも何とかならんものかと、五年前に日向夫婦が書き込んでくれた結婚式の申し込み書を持って来たのじゃが…」
こう言って、雨森さんが結婚式の申し込み書を私達の前に滑らせた。
新郎の欄には、日向蒼(ひなたあおい)三十四歳と書かれており、新婦の欄には小川凛(おがわりん)三十一歳と書かれている。
その書類をしばらく眺めていた私が、良いアイディアを思いついた。
「この二人は結婚五年目を迎えて、小さな娘さんがいるんですよね。その娘さんはいくつなのかしら?」
すると、雨森さんが少し考えてから、「確か、三歳だと言っておった」と答えてくれる。
その答えを聞いた私は、自分が思いついたアイディアを話し始めた。
「じゃあ、雨森神社から娘さんの七五三と、結婚五周年記念のご祈祷を一緒にやりませんか?という招待状を送るのはどうでしょう。
そこに白川先生も参加できれば、凛さんの邪気を計測したり、上手くすると治療を勧めたり出来るかもしれません」
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井野匠
さくらぶ
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