コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
牢のような鉄のようなドア。それを主が乱暴に蹴り開ける。
冷たい石畳のその部屋には、藁の上に座り、己の膝を寝ているナチス・ドイツに貸している津炎が居た。
俺はその光景に呆然としてしまった。と言っても、表情に出る事は無いが…。
こんな場所に逃げて来たのか、?そんな事を考えてしまった。
あまりにも古びていて、辺りには苔や蔦が生茂っている。
どう足掻いても、まともな場所とは言えない。
そんな事をグルグルと思考していれば、いつの間にか話が進んでいた。
「ヘイヘイ。じゃ、ナチスは俺が抱えてくから」
そんな事を言いながら主はナチス・ドイツを姫抱きする。
その手つきは普段とは段違いに優しいような気がした。
「主炎はあいつを頼む。じゃ、俺は先行ってから」
軽いような、重いような言葉を残して主は先に部屋を後にした。
津炎の反抗心と激動と諦めの混じったその限りなく紅い瞳はなにも言わずにこちらを見つめている。
表情では平静を保っていると言うのに。
初めの一言はなんと言えば良いだろうか。
俺は言葉選びが下手だ。できるだけ傷付けぬように。
そんな事ばかり考えて、静かな時間が流れた。
「立てるか?」
続く静寂の後、俺がこの口から発されたのはその一言だけだった。
だが、返ってきたのは、
「立てるなら、主を奪い返して逃走していますとも」
そんな否定の言葉と、困惑の混じったような視線だった。
どうやら俺は、言葉選びを間違えたらしい。
立てないとなると、抱えてゆくしか無いのだが…。
そんな事を考えると、ふと、1つのアイデアが浮かんだ。
「じゃあ、失礼するぞ」
そう言って俺は津炎の事を姫抱きした。
この抱え方なら、ある程度安定もするし、津炎の体調が悪くとも楽だろう。
傷付けぬように、壊さぬように。
ガラス細工に触れるようにそっと抱きかかえる。
津炎からは驚きと戸惑いの感情が漏れ出ていた。