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#女主人公
灰猫さんきち
1,008
ぬくみおんせん
21
#センチネルバース
かんな
976
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こはる
208
ユーリは馬車で来た道を徒歩で引き返していく。ペトロニウスの歩幅は広く、ユーリはついていくので精一杯だった。
軍団の駐屯地を抜ければ、やはり空気が変わる。
ずっと馬車の旅だったので、こうして歩くのも悪くない。雑多で気楽な雰囲気の町を、ユーリは進んでいった。
北の土地は春でもまだ肌寒い。冷たい風が吹き抜けていく。
ペトロニウスは人望があるようで、時折、市民たちから挨拶を受けている。
「冒険者ギルドは東地区にあります。もう少しですよ」
ペトロニウスが言った。その声音には多少の気遣いがある。
ユーリは答える。
「すみません、お世話になってしまって」
「問題ありません。ユーリ殿のことは、遠方の土地から来た身寄りのない女性と聞いております」
「…………」
ヤヌスの選定と異世界から来た話は伏せられているようだ。
やむを得ないか、とユーリは内心でため息をついた。そんな話を正直にしても、周囲を戸惑わせるだけだろう。
「軍団長は愛想のない方ですが」
ペトロニウスは続けた。
「一度引き受けたことは、最後まで責任を持って取り組まれます。ですのでユーリ殿も、困りごとなどがありましたら、いつでも相談にいらっしゃってください」
「ありがとう。私が嫌われていたわけではないのですね」
「もちろん。軍団長の態度はいつもあんな感じですから。それにたとえ嫌っていても、責任放棄をするような方ではありません。ご安心を」
ペトロニウスの口調から、アウレリウスに対する信頼が感じられる。
「あはは……」
ユーリとしては苦笑するしかない。とはいえ、今の所頼れる相手はアウレリウスしかいないのも事実だ。
何か問題が起きたときは相談してみようと思った。
そうしているうちに、冒険者ギルドに到着した。
冒険者ギルドは広い敷地だった。手前に本館があり、奥に倉庫が建っている。
本館は二階建てで、どっしりとした石とレンガ造りである。
倉庫の周囲では何かの作業をしているようで、何人かの人が物を運んだり作業台で手を動かしたりしていた。
ペトロニウスが本館の扉を開けると、中は活気に満ちていた。
入ってすぐ正面にカウンターがあって、男性と女性が一人ずつ受付をしている。左手の壁にはメモ書きのような依頼書が何枚も貼られており、物色している冒険者たちがいる。
「ペトロニウス様! いらっしゃいませ。今日はどんなご用件ですか?」
女性の受付員が愛想の良い笑みを浮かべて近づいてきた。
「ユーリ殿を預かってきた。ギルド長はいるか?」
ペトロニウスが言うと、女性はうなずいた。
「はい、おります。ご案内しますね」
右手奥の階段を三人で上り、二階へ行く。ティララと名乗った受付員が扉をノックすると、中から野太い声が答えた。
部屋の中には四十歳前後と思われる大柄な男性がいた。赤みがかった茶色の髪に、白いものが混じっている。長椅子に座っていたが、ペトロニウスの姿を見るとすぐに立ち上がる。
「おお、ペトロニウス様! よくいらっしゃいました」
「例のユーリ殿を連れてきた。後はよろしく頼む」
「アウレリウス様の件ですな。しかと承りました」
「うむ。ではユーリ殿、俺はこれで」
ペトロニウスはそう言って、さっさと出ていってしまった。
「ようこそ、カムロドゥヌムの冒険者ギルドへ。話は聞いているぜ、ユーリさんよ」
大柄な男性がそう言ってニッと笑うので、ユーリは頭を下げた。
「山岡悠理です。よろしくお願いします」
「お? なんだ、変わった挨拶だな。俺はガルス、ここのギルド長をやっている。まあ気楽にしてくれ」
促されて長椅子に座る。テーブルを挟んで、ガルスと差し向かいの位置である。
ティララがお茶を持ってきてくれた。温かい麦茶が、少し冷えていた体に染み渡るようだった。
「仕事がほしいんだってな」
ガルスは単刀直入に言った。
はい、とユーリはうなずく。
「で、あんたは読み書きができて計算も得意と。願ったりの話だぜ。早速だが、ユーリには倉庫の管理を頼みたい」
「倉庫」
ユーリが敷地にあった大きな倉庫を思い出していると、ガルスは続けた。
「あれは魔物や魔の森で採れた素材を保管しておく倉庫でな。見ての通りけっこうデカいが、最近はあふれそうになってやがる。出し入れの効率も悪ィ上に、軍団や商店から注文があっても、納品に間違いが多くなってきた。商売は信用が第一だからな。これ以上間違えてアウレリウス様からお叱りを受ける前に、なんとかしてくれ」
「なんとか、ですか」
「ああ、やり方はなんでもいい。倉庫部門の人員も好きに使ってくれ。頼んだぜ」
ガルスはそれだけ言うと、ひらひらと手を振った。話は終わりであるらしい。
ユーリはもっと詳しい話を聞きたかったが、ガルスもよく分かっていないのかもと思い直した。一度倉庫で働いている人々に話を聞いて、それでも不足したら再度ガルスに尋ねてみよう。
部屋を出ると廊下でティララが待っていてくれた。
「倉庫で働いてくれるんだって? 助かるわ!」
ティララはにっこりと微笑む。こうして見ると、彼女はなかなかの美人である。金髪に大きな青い目をしていて、愛嬌がある。年齢は二十歳前後のようだ。
ユーリとティララは廊下を歩きながら話をした。
「冒険者ギルドは人手不足なの。読み書き計算ができる人は少ないのに、優秀な人材は軍に取られちゃうから」
「冒険者は、どうやって暮らしている人たちなんですか?」
「あら、そんなに丁寧に喋らなくていいから! タメ口でお願いね。名前も呼び捨てでいいわ」
ティララがウィンクをしてみせる。
可愛らしい仕草のティララに、ユーリも笑顔を向けた。
「じゃあ、普通に話すね、ティララ」
「うんうん! 冒険者だけど、北の防壁を抜けて魔の森で魔物を狩ったり、素材を採集して納品して生活費にしているわね。特定の素材がほしいと依頼が出るときもあるし、そうでなくても魔物狩りはいつでも歓迎だから」
「魔物狩り……。危険じゃないの?」
「もちろん危険よ。そんなに危なくない小さい魔物もいるけど、魔の森じゃいつどんな魔物に出くわすかも分からないもの。命がけよ」
「…………」
日本では考えられない仕事だ。
ティララは歩きながら続ける。
「ドリファ軍団は優秀な兵士の集まりだけど、人手とか予算の問題があって、魔物討伐の依頼を全部こなすのは無理。そこで冒険者の出番よ。冒険者が魔物狩りで活躍すれば、好待遇で軍団に入隊するのもできるの。出世よね。危険だけど、見返りも大きのよ」
冒険者についての話はその辺りで終わって、ティララはギルド職員の宿舎について教えてくれた。
「ギルド職員の宿舎は、この建物の裏手にあるわ。トイレはあるけどお風呂はないから、町の|公衆浴場《テルマエ》まで行ってちょうだいね。今日か明日にでも案内するから」
「うん、分かった」
「じゃあ、もっと詳しい話は今日の仕事が終わったらするわね。また後で」
話しているうちに階段を下りて扉のところまでやって来ている。ティララが扉を開けてくれたので、ユーリはお礼を言って外に出た。
ユーリは辺りを見回して、倉庫の方へと歩いて行った。
倉庫の周辺は何人もの人々が行き交っている。よく見ると敷地はさらに奥があり、作業台が並べられていた。柱と屋根だけの簡易な雨よけが作ってある。
何の作業をしているのか確かめようと目を凝らして、ユーリはぎくりと足を止めた。
作業台に載せられているのは、大きなイノシシのような動物の死体である。やたらに真っ赤な毛皮が目に痛い。作業者はナイフを振るってイノシシ(?)の毛皮を剥ぎ、腹を割いて内蔵を取り出して、どんどんさばいていく。
血は思ったよりも少なかったが、生肉の赤みと脂肪の白がとても生々しい。ついでに臭いも割とひどい。
「よお、嬢ちゃん。こんなところで何やってんだ? 冒険者……じゃねえよな?」
不意に後ろから声をかけられて、ユーリは飛び上がりそうになった。
振り返れば、体格のいい男が人好きのする笑みを浮かべて立っている。まだ肌寒い季節であるにもかかわらず、半袖をまくりあげた軽装である。年齢は二十代前半くらいだろう。
他にも何人か、十代から四十代くらいの年の男たちが荷物を背負ったり、荷車を押したりしている。皆、しっかりと筋肉のついた力自慢の男たちだ。
コッタの足元には荷車があって、両手のひらに乗るくらいの袋がたくさん積まれていた。どうやら丸っこいものが入っているようだが……。
「あ、はい。冒険者じゃないです。私は山岡悠理、ドリファ軍団の紹介で今日から倉庫で働くことになった者です」
「おぉ、アウレリウス様の! まさかこんな細っこい女性だったなんてなあ。俺はコッタ、ここの倉庫の荷運び人だ」
「よろしくね、コッタさん」
「コッタでいいよ。こっちこそよろしく。さて、俺はこいつを倉庫に入れてくるから、ユーリはそこの事務室に行ってくれ」
見れば倉庫の脇に小さめの建物が併設されている。あれが事務室だろう。
ユーリは聞いてみた。
「それは?」
荷車を引き始めたコッタは、いい笑顔で答えた。
「ゴブリンの生首!」
「えっ」
「狩った冒険者が腕のいいやつで、頭皮に傷もねえ。これならいい素材になるぜ」
「生首ってあれですか。生きていたのを首をはねて殺しちゃったやつ!」
「そうだよ。殺してから首を切り落としたら、生首とは言えねえな。そりゃただの切り落とした首だな?」
「えええ……」
「おっと、そうだ、ユーリ。事務所に行く前に倉庫を見ておくかい?」
「は、はい……」
ユーリはかなりのショックを受けていたが、ここは今日から彼女の職場である。ぐっとお腹に力を入れて、コッタと荷車の後についていった。
コッタが倉庫に近づくと、仲間の荷運び人が扉を開けた。倉庫の大きな扉が、重々しい音を立てて開かれる。
ユーリは男たちに続いて、一歩、足を踏み入れた。
そうして入り込んだ倉庫の中は――カオスに満ちていた――。
コメント
1件
あっこれ面白い!異世界転生あるあるだけど、いきなり最強とかじゃなくて「読み書き計算」って地味スキルをちゃんと活かそうとしてるのが好印象だわ。しかも転生先のユーリの困惑っぷりがリアルで、「生首ってあれですか!!」ってツッコミにめっちゃ共感した。笑 倉庫がカオスって、どんな状態なのか気になりすぎる…。次回が楽しみ!🔥