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第四十二章
蒼き龍の目覚め
―青龍の覚醒―
蒼紫は静かに扇を掲げた。
薄闇の中に、凛とした声が響く。
「蒼き瀧津瀬よ……我が扇に宿りたまえ――」
その瞬間。
大地に残る水気が、蒼紫へと集まり始める。
足元に小さな水紋が広がり、そこから蒼い光を纏った水の柱が立ち上がった。
静かな流れでありながら、そこに宿る力は圧倒的だった。
「……なに……?」
周囲に広がる異様な気配に、誰もが言葉を失い、蒼紫を見つめる。
集まった水は、掲げられた扇へと吸い寄せられていく。
扇の骨に水が絡みつき、薄い水膜が張られる。
やがてそれは、蒼い輝きを放つ水の刃へと姿を変えた。
「清き水刃となりて……敵影を断ち切れ」
蒼紫が扇を振り抜く。
次の瞬間。
放たれた水は無数の刃となり、赫夜へ向かって駆け抜けた。
その勢いに巻き込まれた低級魔獣たちは、何が起きたのか理解する暇もなく消えていく。
しかし――。
それだけでは終わらなかった。
地へ落ちた水刃は集まり、流れとなって戦場を駆け巡る。
泥に染まった大地。
漂う瘴気。
まとわりつく邪気。
そのすべてを包み込むように、水の流れは広がっていった。
そして。
蒼紫の前に、水で形作られた龍が姿を現す。
「逆巻く龍波よ……穢れを洗い、怨嗟を鎮めよ」
蒼紫の声に応えるように、水龍が動き出す。
戦場を駆け抜ける龍の身体へ、黒い霧のような邪気が吸い込まれていく。
濁った空気は少しずつ消え、荒れていた大地も静けさを取り戻していった。
やがて水龍は空へと昇る。
その身体は無数の雫へと変わり、静かな雨となって降り注いだ。
「この一陣をもって……戦場を清めん」
蒼紫が扇を閉じる。
雨は静かに大地へ落ちていく。
血に染まっていた地面は、少しずつ元の色を取り戻していった。
身体に降り注ぐ蒼い雫は、皆の疲労や焦りを洗い流していく。
騒がしかった戦場に、静寂が訪れる。
誰もが感じていた。
先ほどまで満ちていた重苦しい気配が、消えていることを。
蒼紫はゆっくりと扇を下ろした。
まだ微かに蒼い光を宿す扇を見つめる。
「はぁ……っ」
ボロボロになった着物を整えながら、髪をかき上げる赫夜。
しかし、その身体には傷一つ残っていなかった。
「……痛ぇな」
刀骨は頬を掻きながら周囲を見渡す。
まるで何かが当たった程度の反応だった。
「帰ろうぜ」
それだけ言うと、刀骨は闇の中へ姿を消した。
「……ええ。また会いましょう? 青龍の巫女ちゃん」
赫夜は優雅に手を振り、刀骨の後を追うように闇へ消えていった。
「……今のが……青龍の……」
蒼紫は呟きながら、周囲を見回す。
そして。
ふと、自分の手を見つめた。
霞みがかってぼやけて見えた
「……まさか……」
蒼紫は悟る。
自分が支払った代償を――。
コメント
1件
第42話、読ませていただきました。 蒼紫が本当の意味で「青龍の巫女」として覚醒する場面、圧巻でしたね。特に「逆巻く龍波よ……穢れを洗い、怨嗟を鎮めよ」という詠唱の荘厳さに心が震えました。水龍が邪気を吸い込み、雨になって戦場を清めていく流れが美しくて——。 でも最後の「霞みがかってぼやけて見えた」という一文が胸に刺さります。力の発動に代償が伴うという切なさ。次が気になりますね……!