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一緒に来たアールラビッツ――“あーたん”こと、あーちゃんが放った全力の蹴り。
冒険者の男は、地面から綺麗に離陸して宙を舞った。
……あれ? なんかこの光景、デジャヴ?
「着地は任せて!○ーチャー!」
某有名アニメのパロを呟きながら、俺――アオイは【糸』を展開。
イメージは“ふわっと受け止めるハンモック状のネット”。するとその通りに糸が編まれて、空中の冒険者をキャッチし、衝撃を吸収したあとにふわっと糸が解けて、彼は優しく地面に落ちた。
――大事なのは、イメージするのは常に最強の自分だってやつだね!
「な、何が起こったんだ!?」
もう一人の冒険者が顔を真っ青にして叫ぶ。
「ごめんなさい……でも、こうしないとあーちゃんが止まらなさそうだったから……」
って、話してたら無事着した男の方が血相を変えて迫ってきた!
「てめぇの仕業か、この仮面女が……! 殺してやる!!」
あっ、怒ってる! めっちゃ怒ってる!?
仮面越しでもわかるくらい殺意がバチバチだよ!?!
「……あーちゃんっ!」
「はーいっ!」
――ドガァ!!
迫ってきた冒険者は、あーちゃんの横蹴りでスパーンと吹き飛ばされて、コロコロと地面を転がっていった。
……うん、ごめん。でも正直、ほんとにヤバかったから、これ、正当防衛ってことで……お願いします!
「くぁ!?」
「……クルッポー」
あれ? ヒロユキだけじゃない……もう一匹? まぁいっか。
でもこの黒いベルドリ、警戒心が無さすぎる……ってことはやっぱりヒロユキ本人だな、間違いない。
普通、野生のベルドリなら人間が近づいた瞬間にすっ飛んで逃げる。
例えるなら――田舎の鳩くらいには警戒心が強い。
「ちょっと我慢してね?」
俺は回復用の魔皮紙を取り出し、ヒロユキに突き刺さった矢を引き抜こうとする。……と、めんどくさいことに、後ろで冒険者たちがまたやんややんや騒ぎ出した。
俺は小さくため息をついて、仮面に手をかけた。
「(【魅了』を使うか……めんどくさいけど、ここでトラブルになるよりは――)」
仮面を外すと同時に、俺は視線を男冒険者に向けた。
「……お、お前……その顔……マジで……」
「え?」
「可愛すぎだろ…………」
バタリと膝をつく男冒険者。
俺は何もしてない。ただ仮面を外しただけなんだけど!?
「ちょ、何なのよアンタ!?急にどうしたの!?しっかりしてよ!」
女冒険者が肩を揺さぶるけど、男は反応しない。
「(えぇと……どうしよう)」
俺はそっと仮面をつけ直す……ま、まぁ……よく分かんないけど?
魅了、使わなくても済むなら――それはそれで、助かるかも?
「このベルドリ達は、あの……僕の小さい頃からのペットなんです。昨日、はぐれちゃって……夜も眠れなくて、ようやく見つけたんですけど……」
即興で思いついた、ちょっと苦しい嘘。でも……
「……っなんと……!なんと健気で純真なお方だ……!!」
――え?なんか、変な方向に手応えあった……?
男の冒険者は目を潤ませ、がばっと膝をついて俺を見上げてきた。
「申し訳ございませんでしたっ!!!この愚かなる僕が、愛しきペット様を傷つけるなどっ!!」
「え、いや、あの……」
男、俺の手を両手でがっちり握りしめた。
「あなた様の名は……!?どこから来られた!?何を好まれる!?お、お仕えしたいっ!」
「えぇぇぇぇ!?!?」
「ちょっとアンタ!?何言ってんのよ!?あたし達冒険者でしょ!?」
横から女冒険者がバチバチにツッコんでるけど、男の目は完全に俺に向いたまま。
「……もはや俺の心は彼女に射抜かれた……矢より深く……そして甘く……」
「(す、すまん……その射抜いた奴は男なんだよ!ごめん!!)」
「そ、それより……ここから一番近い村ってどこですか?」
「はいっ!こちらの《クローバー村》でございます!あっ、地図もお渡しいたしますのでっ!」
男冒険者が、わたわたと袋から地図を取り出して渡してきた。
「……はぁ。あたし達、先に戻るわよ。あなたが居ると仕事にならないし……」
女冒険者は肩を落としてため息をつき、男を引きずるように森へ戻っていった。
「またどこかで、お会いできますようにいいいぃぃぃぃ……」
(ま、まぁ……結果オーライ……?)
「ごめんね、待たせたね」
「……」
奥までぐっさり刺さってる。矢の先に返しもついてるから、これ、普通に引き抜いたら絶対めちゃくちゃ痛いやつだ……
あれでしょ?手に釣り針が刺さったときみたいな、あの面倒で痛いパターン。
「ふぅ……頼みました、先生」
俺はそっと【糸』を出すと、糸はまるで生き物のように黒ベルドリの傷口へと潜り込み、中から矢を包み込む。
そして、ゆっくり、ゆっくりと――「カラン」と音を立てて、矢は地面に落ちた。
「あとは、ここに……これを、こうやって……」
矢が抜けた穴には、すぐさま高級な治癒魔皮紙をぺたり。魔力を通すと、血が止まり、傷口がみるみる塞がっていく。
顔色も、さっきよりはずっとマシになってきたみたい……はぁ、買っといてよかった、緊急用。
「くぁ……」
その様子を、泥まみれのピンクベルドリが心配そうに見ていた。
罠から出してもらったあとのこの表情……きっとこの子も、元は人間だったんだろう。
……って、もし女の子だったら……我が弟ながら、罪なヤツだな。
「くぁ!くぁー!くぁー!」
「ん?」
ピンクベルドリが俺に向かって、何かを一生懸命伝えようとしてくる。
でもごめん、俺、魔物語はわからんのよ。
――でも、こういうときのために!
「……あーたん、この子、何て言ってるの?」
リュウト君情報によると、あーたんことアールラビッツは、魔物語がわかるらしい!
「えとねー、『お兄さんは大丈夫なの!?』だってー!」
「うん、大丈夫だよ。ちょっと危なかったけど、ゆっくり休めばすぐ元気になるよ。安心して?」
「くぁ!くぁ〜♪」
「ありがとうだって〜!」
ピンクベルドリが嬉しそうに俺にスリスリしてくる。
ふふ、可愛いなぁ……なんか昔、ヒロスケと遊んでたときのこと思い出すなぁ。
「どういたしまして♪」
「くぁ!くぁ♪」
「んー?♪」
……しかし、次の言葉に、俺は目を見開いた。
「流石おかぁさん!だって〜!」
「――えっ?」