花火が上がりました。
空が明るくなりました。
町の人たちが起きてきました。
みんな眠そうです。
「もうすぐ夜が明けるよ。」
「夜明け前に起きてるなんて珍しいな。
何があったんだろう?」
「まだ寝ぼけてるんだよ。」
「またおかしな夢を見てるだけじゃないのかな。」
「違うよ、あれはきっと何かが起きる前兆に違いない。」
「きっとそうだよ。」
「でもいったい何をするつもりなんだろう?」
「さっぱり分からないな。」
「あの人にも分かるはずないだろう。」
「そりゃそうだ。」
「でもとにかく見張っていたほうがいいんじゃないかな。」
「そうだな。」
「よし、分かった。」
「じゃあ見張りをしよう。」
「うん。」
「分かった。」
「……また来たのか、あんたら。
今度は何の用があるってんだい?」
「あの……この人を探しています。」
「どれどれ見せてみな。
おっと、これは驚いた。
あんた、宇宙から来たんじゃねえのか? 地球では見たことがねえ顔つきだぜ。」
「宇宙から来たかどうかなんてわからないけど、とにかく探しているんだよ。」
「わかったよ。でもここは宿屋だからな。
泊まる気がなければ出ていってもらうことになるぜ。」
「もちろん泊まっていきます。」
「そりゃよかった。
あんたの部屋は202号室だ。
料金は前払いで100ドルになるぜ。」
「わかりました。
100ドルちょうどあります。」
「よしきた。
部屋の鍵はこれだ。なくすんじゃねえぞ。
それから、もし夜中に起きちまったら、 いつでも起こしに来てくれていいんだがね。」
「ありがとうございます。
それじゃぼくたちはこれで失礼します。」
「おう、せいぜいゆっくりしていきな。」
(扉を閉める音)
「……………………。」
「……………………。」
「……………………。」
「……………………。」
「……………………。」
「……………………寝るか。」
(ベッドに入る)
「明日になったら、町を出ていくか。」
「………………ZZZzzzzz……ハッ!? ここはどこだ?」
「あんたが寝てる間に、あんたの体はどんどん小さくなってゆくぜ。」
「おれ達は人間じゃないんだ。
あんた達の世界で言えば幽霊みたいなもんかな。
おれ達が消える時は、この世から完全に消えちまって、もう二度と現れられないのさ。ヒッヒ。
だからあんまり、おれ達のそばに来るんじゃねえぜ。
そうすりゃ、また会えるかも知れねぇぜ。
じゃあな。
(宇宙服を手に入れる)
ここはどこなんですか? 月の裏側ですよ。
なぜわたし達はここに来てしまったんでしょう? それはわかりませんね。
ただひとつだけ言えることは、ここには時間というものがほとんど存在しないということだけです。
しかし、それも当然のことでしょう。
何故ならば、ここは死の世界なのですから。
時間があまり無いってどういうことなんでしょうか? そのままの意味ですよ。
ここでは一日も一週間も同じことですし、時間の流れ方も違います。だからここには季節というものはないのです。
ここでは月日を数える必要もないのです。
ここではただひたすらに眠ればよいのです。眠ることはあなたの心を満たしてくれましょう。ここはそういう町なのです。
ここではすべてのものが休息を求めています。
わたしたちホテルマンも例外ではありません。
この町では夜になると誰もが疲れ果てて眠りにつくのです。それはまるで夢の世界に誘われるようなものでしょう。この世界に来てからの数日間は長いようでいて、あっという間に過ぎ去ってしまいました。そして気が付けばもう明日が最後の晩になるでしょう。今日もまた眠れぬままに朝を迎えてしまいそうです。でも不思議と不安はないのです。きっと仲間がいるからだと思います。ぼくらはお互い顔を見合わせて微笑み合いました。町のあちこちにあるネオンサインがチカチカと点滅しています。その光が妙に強く感じられます。まるで早く起きろと言っているように見えます。でもまだ起きる時間ではありません。ぼくたちはベッドに戻りまた横になりました。ところがなかなか寝つけません。みんな同じ気持ちなのです。しばらくするとジェイが起き上がり部屋の中を行ったり来たりし始めました。
「何やってんのさ、ジェイ?」プーが言いました。
「眠くなるまで散歩してくるんだよ。君たちも来るかい?」
もちろん行きたいと思いましたが、すぐに返事をすることが出来ませんでした。なぜならぼくらの体はバラバラになっていたからです。
「分かったよ、ネネ。君は先に一人で行ってくれ。あとですぐ行くから。」
「うん……じゃあまた後で会おう。」
ジェイの姿はすぐに闇の中に消えていってしまいました。残ったぼくらも体を元通りに直し、急いで着替えをして外に出かけようとしました。その時ポッキーが叫び声を上げました。
「大変!わたしたち靴を忘れてきたわ。これじゃ外に出ることが出来ないじゃない!」
確かにこのまま外に出るのは危険かもしれません。裸足で歩くのは慣れていますが、ここでは地面の石ころはとても尖っていることを思い出します。怪我をしたくありません。それに町の中とはいえここは見知らぬ土地です。どんな危険なことがあるかも分かりません。
「困ったなあ、どうしよう。取り敢えずぼくらの部屋に行ってみよう。」
「あれれ?なんにも変わってないぞ。どうなってんだろう?」
「きっと、ここは現実じゃないんだよ。夢の世界なんだ。」
「夢か……。確かにこのベッドふかふかだし、すごく気持ちいいし、 このまま寝てしまいたい気分だけど……。」
「でも、そうやってると目が覚めちゃうんだと思う。
だから眠っちゃだめなんだ。」
「どうして?」
「夢の中で眠ると、もう二度と目覚められないかもしれないじゃないか。」
「怖いこと言わないでよ……。」
「怖かったら目をつぶっときゃよかったんだよ。
そうすりゃもう二度とこなくてすむんだからな。
ヒッヒ!」
「このドアの向こうにゃ何があると思うかねぇ? 天国さ!地獄かもしれねぇけどな。
でもな、地獄行きの列車に乗ってくる客なんて、まずいないぜ。
地獄行きの列車に乗った奴がいたとしたら、そいつぁきっと 天国に行きたかったにちがいねえよ。
だからそいつはきっと天国にいるはずだし、おれはその反対で、 地獄の中を探しまわっている最中ってことさ。
もし天国があったとしての話だけどな。
天国に行ったところで、結局のところまた戻ってくることになるかもしんないしな。まあとにかくここはおれの世界じゃないってことだ。
わかったか? わかればよろしい。
それじゃ出てってくれ。」
(ムーンサイド町を出る)
「あいつらはなんにも知らないのさ。
天国のこととか、悪魔の存在とかな。
あいつらの知ってるのはこの町だけなんだ。
あいつらが知ってることといえば、自分が何者かってことと あとは、自分の周りにあるものだけだ。
あいつらはみんな、自分のことをこう呼んでる。
「ぼくたちの名前はホテル・ダークムーン」って。
「わたしたちはホテル・ダークムーンの支配人です。」
「ようこそムーンサイドへ。」
「ようこそムーンサイドへ。」
「ようこそムーンサイドへ。」
「ようこそムーンサイドへ。」
「わたしの名前はホテル・ダークムーンです。ひとねむり100ドルです。」
「もう眠ってしまいましたね。」
「起きてください。」
「朝ですよ。」
「起きる時間はとうに過ぎていますよ。」
「早く起きた方がいいと思いますよ。」
「起きなさい。起きないと……こうしますよ!」
ガバッ(ベッドから飛び起きる音)
「ここはどこだ!? 俺は何をしていたんだ!?」
「俺の名前は何だったろう? 思い出せない……だがこの感覚は何なのだ。
頭の中にまだ何かが入っているような感じだ。」
「これは夢ではない。確かに俺は何かをしていたのだ。」
「俺は一体何をしているんだ?」
「思い出せない……ただ胸の奥底に、得体の知れぬ熱いものが脈打っている。」
「これが夢でないとするならば……俺は記憶をなくしてしまったのだろうか?」
「いや違う。きっとこれは何かの記憶の一部分に違いない。」
「そうだ。まずはこの部屋を出てみよう。」
ガチャリ(部屋の扉を開ける音)
ギイィ~(廊下に出る音)
シーン……(静寂に包まれる音)
「誰もいないのかな?人の気配を感じないが……。」
「とりあえずこの建物から出てみるか。」
トコトコ(歩く音)
スタタタタタッ(走る足音)
タッタッタッタッタッ(小走りの音)
「随分走ったな……。しかし建物の外に出れたぞ。」
「さてこれからどうしようか。」
「あんまりヒマなんでちょっと遊んでみたけど、やっぱりダメだったぜ。」
「ハロー、また会えたね。今度は何しに来たんだい? ハッハァ!そうか、あのガキどもを探しに来たんだろう? あれだけ痛めつけられてもまだ懲りずに探しに来るなんて、まったくたいしたもんだよ。」
「どこに行くつもりだい?あいつらはこの辺にいるはずなんだがね。
もうすぐ夜になる。そうなると探すのは難しいんじゃないのかね。
もしよかったら、おれに手伝わせてくれないか。」
「奴らの居場所を知ってるのかい?そりゃすごい。教えておくれよ。」
「もっと詳しく話しておくれよ。
おれはこの町のことならなんでも知ってるんだ。」
「あんたたち、ほんとに運が良かったねぇ。今日は新月だ。
これぐらい暗くないと眠れないわよね。でも夜更かしすると目が赤くなって大変。だからわたし達はみんな早寝早起き。
そういえば昔あるところに大きな木があってね、そこにはリスさんたちが住んでいました。ところがある日のこと、この森の木を切り倒そうとたくさんの人がやってきました。そこでリスたちは大急ぎで逃げ回りました。けれどとうとう追いつめられてしまって……。
そのときリスは、もうちょっとで落っこちるところだった。
大きな石の上をすべっていたのだ。
あとほんの一インチでも身を沈めていたら、彼は地面にまっさかさまに落ちていたことだろう。
しかし、落ちなかったかわりに、リスはとてもおかしな目にあった。
地面すれすれのところで、彼の体は宙づりになった。
足の下では木がざわめいている。
リスはその幹にしがみついてぶらさがっているのだ。
なんとも奇妙な気分だが、リスはこの状態を気に入っていた。
この木は森のなかでも一番背が高いし、枝振りもいいからだ。それに――何よりも――リスは空腹なのだ。だから彼は枝の上にじかに腰かけて、空を見上げた。太陽はまだ昇っていない。薄明の中、木々のあいだに青い色が見えた。湖面の色である。あの湖の向こう岸まで行けば、食べ物があるはずだ。リスは湖のそばにある小さな村で育った。村といっても住人はわずか十人足らず。村人のほとんどが老人か子供か病人だった。それでも村の人たちはみんな親切だったし、自然に囲まれていたので生活に不満はなかった。
しかしある日、村に恐ろしいことが起きた。空から怪物が落ちてきて、たくさんの人が殺されたのだ。しかもその怪物は空を飛んでいて、とても人間の力で倒せるような相手ではなかった。人々は恐れ慄き逃げ惑ったが、ついに捕まり殺されてしまった。そして残ったのはこの小さな村だけになった……。
それ以来、湖の近くには誰も近づかなくなった。
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