テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
短く、冷徹な一言。
その直後、指先から放たれた漆黒の衝撃波がケルベロスの巨体を呑み込んだ。
咆哮を上げる暇さえ与えず、山のような体躯の魔物は一瞬にして森の奥まで吹き飛ばされ
そのまま跡形もなく消滅した───
静寂が戻る。
ついさっきまで空間を震わせていた耳を劈くような咆哮も
木々をなぎ倒す凶暴な足音も、嘘のように消え去っていた。
風に揺れる葉の音と、私の激しい鼓動の音だけが耳元で鳴っている。
私は、ただ呆然と彼の背中を見つめていた。
「……オーロラ、怪我はないか」
ゆっくりとこちらを振り返ったディアヴィル様の瞳はいつもの穏やかな、けれど私を気遣う心配そうな色に戻っていた。
そのあまりに優しい眼差しに、私は今さらながらに思い知らされる。
(ああ、そうだ……。この人は、本当に魔王様なんだ)
城で一緒に過ごしている時は、私の拙い手料理を美味しいと言って食べてくれて
私のくだらない冗談に少しだけ眉を寄せて、時折見せる笑顔、子供のように照れてしまう、不器用で愛らしい人。
けれど、その本質は───
一瞥しただけで、あの巨大で凶悪な魔物を塵に変えてしまう。
この広大な魔界の頂点に君臨する、絶対的な強者なのだ。
「ディアヴィル様、やっぱり……お強いです、ね」
絞り出すようにそう言うと、ディアヴィル様は私の震える肩を見て、困ったように眉を下げた。
「……震てるが。怖いか」
短く問いかけられたその声には、わずかな自嘲が含まれているように聞こえた。
恐怖がないと言えば、嘘になる。
彼の持つ圧倒的な力は、一歩間違えればすべてを無に帰す破壊そのものなのだから。
けれど、それ以上に私の胸を満たしたのは
彼への深い敬意と、震えるほど大きな信頼だった。
私はおぼつかない足取りで立ち上がり、彼の逞しい右腕をそっと抱きしめた。
「い、いいえ!……少しびっくりしただけです。守ってくださって、ありがとうございます」
しがみつく私に、彼は一瞬驚いたように目を見開いたが、すぐにふっと表情を緩めた。
「……そうか」
彼は私の頭を大きな手でポンと叩くと、わずかに口角を持ち上げた。
その無骨な手のひらの温度が、私の心拍をゆっくりと落ち着かせてくれた。
◆◇◆◇
城に戻った後
夕焼けの茜色が、東塔の大きな窓から差し込み、王の私室を深い琥珀色に染め上げていた。
二人きりになった静かな空間で、私はずっと胸の奥に仕舞い込んでいた
あの日からの疑問を口にすることを決めた。
「あの、ディアヴィル様?」
「どうした」
彼は執務机の椅子に深く腰掛け、私の方を向いた。
「私、ずっと気になっていたんですが……ディアヴィル様って、本当に怖い魔王さんなのかなって……」
「何が言いたい?」
怪訝そうに眉を寄せる彼に、私は今日見た光景や、最近知ったことを並べていく。
「……ディアヴィル様のこと、“氷の覇王”とか“血まみれの悪夢”と呼んで恐れる人もいますが…」